住宅手当を割増賃金の計算から除外できる場合、できない場合の適切な見分け方

住宅手当については法律上、割増賃金の算定基礎から除外できる場合が定められていますが、個別の事案によっては除外が認められないケースも存在します。今回はその違いについて整理するとともに、住宅手当の取扱いに問題がある際の対処方法について解説します。
 
1. 割増賃金の算定基礎から除外できるもの
労働基準法第37条第5項および労働基準法施行規則21条によると、住宅手当も割増賃金を計算する際の基礎賃金から除外できると定められています。
 
 ①家族手当
 ②通勤手当
 ③別居手当
 ④子女教育手当
 住宅手当
 ⑥臨時に支払われた賃金
 ⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
 
記載上は「住宅手当」とだけ書かれていますが、実際には「住宅手当」という名称で支給されているものは全て除外できるものなのでしょうか。

 
2. 割増賃金の算定基礎から除外できる住宅手当の条件
厚生労働省通達(平成11.3.31基発第170号)によると、以下の条件を満たす住宅手当は算定基礎から除外されます。
 

・住宅に要する費用に応じて算定される手当であること

・費用に応じた算定とは、「費用に定率を乗じるもの」や「費用を段階的に区分し、費用の増加に応じて額が増加するもの」をいうこと

・住宅以外の費用に応じて算定されるもの、住宅の費用以外の要素によって算定されるもの、一律定額の手当は本条の住宅手当に当たらないこと

 
つまり、「賃貸は賃料月額の●%、持ち家は住宅ローン月額の●%」とする場合は残業代の算定基礎から除外できますが、「賃貸は一律▲万円、持ち家は一律■万円」とする場合は除外できないということになります。
また、例えば、規程上「必要な費用に応じて支給し、上限★円とする」となっているケースを考えてみます。「必要な費用に応じて支給し、・・・」とあるので、算定基礎から除外できそうにも思えます。
ただし、ここで確認しなければならないのは、「規程の内容が条件を満たしているか」ではなく、「支給の実態がどうか」という点です。例えば、上記のケースで、実態として「対象者全員に一律で上限額が支給されている」場合は算定基礎から除外できる条件を満たしていない可能性があります。
条件を満たしていない住宅手当の制度を放置してしまうと割増賃金未払いのリスクが生じるため、自社のやり方に誤りがないかどうか微妙な場合は外部の法律専門家に相談を行うか、管轄の労働基準監督署に運用面も含めて相談を行うことを推奨します。
 
3. 住宅手当の取扱に問題があるときの対処方法
では、住宅手当の取扱に問題があった場合はどのように対処すればよいでしょうか。
対処方法としては、以下の2つの選択肢が考えられます。
 
 1.適切な扱いになるよう見直す(規程を改定する or 運用を見直す)
 2.住宅手当を廃止して、別の賃金項目に振り替える

 
上記1のように、住宅手当に関する規程の改定もしくは運用の見直しにより問題点を是正する企業が多いですが、一方で、上記2のように住宅手当を別の賃金項目に振り替える企業も一定数見られます。
近年、在宅勤務の普及により自宅も働く場所として捉えられるようになりました。その結果、電気代や通信費、その他自宅で業務を行うための設備導入費用のサポートなど、従来の住宅手当よりも広範な「在宅勤務手当」に対する要望も大きくなってきています。
実際に、住宅手当および通勤手当を廃止し、在宅勤務手当を給与に上乗せしている企業も存在しますし、また、筆者が前に務めていた会社では、在宅勤務用のオフィスチェア、PCモニタ、キーボード、マウスなどの中から選択して購入できるという仕組みがありました。
ただし、在宅勤務手当を導入するか否かは、会社の方針や費用対効果を見極めて実施すべき事項です。また、特定の社員とそれ以外の社員で不公平が生じないようにすることも必要です。
 
いずれにせよ、算定基礎の問題を機会と捉え、住宅手当そのものの必要性や効果性を再度検証してみるのもよいでしょう。
 
次回のブログでは「在宅勤務手当」について深堀して紹介します。

執筆者

宇井 賢 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

国内事業会社にて、知財(特許等)情報の調査・分析結果を基にした経営・事業戦略立案に関する業務を経験。その後、外資系大手コンサルティングファームにてDX(デジタルトランスフォーメーション)を軸にした組織・業務変革コンサルティングに従事したのち現職。また、中小企業診断士として中小企業に対する幅広いテーマでのコンサルティング実績を持つ。
分析結果のみならず、会社・社員の想いも踏まえた本質的・実践的なコンサルティングを行うことを信条としている。
中小企業診断士。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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