賃金設計講座(1) 基本給の設計について③

前回のブログでは、基本給の設計方法における2つ目のステップとして「隣り合う賃金レンジの関係性」に関して述べた。今回のブログでは、3つ目ステップとして「基本給の設定水準」について解説していくこととする。
 
③ 基本給の設定水準
 
基本給の設計において最も重要かつ悩ましいのが、「設定水準をどうするか」という点である。新しい基本給をどの程度の水準で設定するかによって、人件費インパクトが大きく左右されるだけでなく、制度改定に対する社員の納得性にも大きな影響を及ぼすからである。人件費コントロールに偏った水準設定をしてしまうと、社員の納得性を大きく損なうリスクが発生する。逆に、社員の納得性を意識しすぎた水準設定をしてしまうと、人件費が大きく膨らむリスクが発生する。このようなトレードオフの関係の中で、落とし所としての最適な”水準設定”を見極めることが、賃金制度改革を成功に導くための鍵となる。
基本給の水準設定に関する一般的な設計フローは、以下の通りである。
 
【STEP1:新しい水準設定の方向性を決める】
賃金制度改革の目的によって、新しい水準設定の方向性も自ら決まってくる。具体的には、新しい基本給の水準を「①引き上げる/②引き下げる/③現状維持の」いずれにするかについて決めることになる。例えば、新制度の改定目的が「人件費の高止まりを是正する」ということであれば、新しい基本給の水準は「引き下げる」方向になるであろう。また、新制度の改定目的が「業界内において採用競争力のある報酬水準を設定する」ということであれば、新しい基本給の水準は「引き上げる」方向になるのが一般的であろう。
 
【STEP2:ポリシーラインを決める】
ポリシーラインとは、各等級の基本給レンジにおける中心となる金額のことである(※あくまでも”設計上の中心金額”を意味するものであり、必ずしもレンジの”中央値”になるとは限らない)。 このポリシーラインを設定するにあたっては、設定ターゲットを何処に置くかがポイントになる。主な設定ターゲットとしては、以下の4通りである。
 
(1) 業界水準(や世間水準)をターゲットに据える
(2) 現行水準をターゲットに据える
(3) 等級間格差をターゲットに据える
(4) 上記(1)~(3)のうち、2~3つを同時にターゲットに据える
 
設定ターゲットが決まると、当該ターゲットからの引き上げ/引き下げ幅を決める。これについては、制度改定の方向性に基づいて政策的に決定する。例えば、世間水準と同程度に設定するのであれば、引き上げ/引き下げ幅を設けずにそのまま世間水準をポリシーラインに据えることになる。また、現行水準からの引き下げを図るのであれば、引き下げ幅について検討することが必要になる。
 
【STEP3:レンジ幅を決める】
ポリシーラインが決まると、それを軸に等級別のレンジ幅(上限額/下限額)を設計していくことになる。ポリシーラインだけでなく、このレンジ幅の長さによっても、基本給全体の水準が左右される。
レンジ幅の設定方法にも幾度通りかの考え方やパターンがあり、昇給方式によっても変わってくる。以下では、最も一般的な「標準モデルベース/積上げ方式」の場合のレンジ幅の設計方法について列挙する。
 
① 各等級の標準モデル年数を設定する
② ポリシーラインの金額から、標準モデル年数分の昇給額を差し引いた金額をレンジの下限額として設定する
③標準モデル年数を超える滞留年数を考慮した上で、レンジの上限額(=ポリシーラインを超える部分のレンジ幅)を設定する
 
レンジ幅を設計する際に注意すべきことは、レンジ幅をポリシーラインから上方向に伸ばしすぎないことである。これをやってしまうと、基本給テーブルが年功的になってしまうため、人件費コントロールが効きにくい仕組みになってしまうからである。
 
以上の設計フローは、あくまでも”理論的なアプローチ”ということになる。従って、上記アプローチで設計した基本給水準をそのまま採用できるケースは殆ど無い。最終的な基本給テーブルの確定までには、個人別の移行シミュレーションを幾度も繰り返しながらテーブル金額を調整していくことになる。これにより、改定に伴う人件費インパクトや各人への影響度合い(特に、不利益変更性)を最適な落とし所に持っていくのである。但し、この移行シミュレーションでは、個人の”顔”が見えるが故に、往々にして経営者や制度改革メンバー等の”私情”が入り込みやすいので、注意が必要である。
 
次回(以降)のブログでは、基本給設計時における「④昇給の仕組み」について解説したいと思う。
 
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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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