賃金設計講座(3): 賞与制度について⑦

前回のブログでは、賞与制度を設計する際の3つ目の観点である「賞与原資算出ルール」について、基本的な考え方やルール導入によるメリット/デメリットを中心に解説した。今回のブログにおいては、「賞与原資算出ルール」を具体的に設計する際のポイントについて解説していくこととする。

 

■ 賞与原資算出ルールの構成
前回のブログで触れたように、賞与原資算出ルールを「会社(や部署)の業績と連動させる仕組み」として定義する場合、当該ルールを構築するにあたっては一般的に以下の3つの項目について検討/決定を行うことが必要となる。
       ①業績指標
       ②業績の対象期間
       ③算定方式

 

上記3つの項目について、それぞれの概要は以下の通りである。

 

<① 業績指標>
会社の業績を表す金額/数値には様々な種類があるが、その中でどの業績にリンクして賞与原資を決めるかということである。一般的には、「営業利益(額・率)」「経常利益(額・率)」「売上高」「付加価値高」などが業績指標として設定されるが、日本企業では特に前者2つの「営業利益」と「経常利益」を採用するケースが多い。調査機関によって具体的なデータは異なるものの、業績連動型の賞与原資算出ルールを導入している会社のおよそ8割程度が、営業利益もしくは経常利益のいずれかを業績指標として採用しているようである。
当然ではあるが、いずれの業績指標を選択するのが正しいのか・・・ということではなく、会社としての方向性や意向を踏まえて決定することになる。一般的には営業利益や経常利益が多いものの、その他に会社として戦略的にターゲットにしている重要目標達成指標(KGI)等があるのであれば、それらとリンクさせることが望ましいということになる。

 

<② 業績の対象期間>
これについては、要は「どの期間(時期)の業績を反映するのか」ということである。一般的な日本企業では夏・冬の半年ごとに賞与を支給するため、この「業績対象期間」についても半年単位で設定するケースが多い。
半年単位で対象期間を設定する場合、パターンとしては「支給日の直前半期」と「支給日の属する半期」の2種類がある。このうち、日本企業で多いのは前者の「支給日の直前半期」である。例えば事業年度が4月~3月の会社の場合、今年の夏の賞与原資を決める時には、前年度の下半期、すなわち去年の10月から今年の3月末までの半年間の業績を対象にする、といったパターンである。このパターンが多いのは、言うまでもなく、対象期間の業績が確定してから賞与原資を決定することができるからである。
一方で、後者のパターンである「支給日の属する半期」というのは、例えば、今年の夏の賞与であれば、その支給日が含まれている半年間、すなわち、今年の4月~9月までの上半期の業績が対象になる。当然、6月の夏季賞与支給日時点では、上半期全体の確定実績は出ていないので、あくまでも「予測ベース」の数値や指標を使うことになる。従って、前者のケースよりも採用率は低いものの、足元の業績見込みで賞与原資を決めたい経営者の場合(特に中小企業の経営者)には、これを使っている会社もある。

 

<③ 算定方式>

最後の項目である「算定方式」とは、業績指標を使って賞与原資や支給月数を具体的に決定するための方法や計算式のことである。大きくは2つの種類があり、「テーブル方式」と「係数方式」がある。
前者の「テーブル方式」とは、『業績指標』と『賞与原資又は支給月数』の関係を表(テーブル)を使ってあらかじめ決めておく方式である。例えば、「営業利益率が●%以上の時は、賞与支給月数は●ヶ月」といった関係を、営業利益率の段階に応じて賞与支給月数も決定しておく、といったイメージである。社員にとっては非常に分かりやすい仕組みと言える。

他方、後者の「係数方式」とは、『業績指標』に一定の『係数』を乗じて賞与原資を算出する方式である。例えば、「上半期の付加価値高の●%を冬季賞与の総原資とする」といったイメージである。非常にシンプルな方式ではあるが、実運用上では柔軟性に欠ける部分もある。

 

なお、会社業績ではなく部門業績を反映したい場合には、①の業績指標を設定する際に「部門業績指標」を採用することで対応が可能となる。但し、完全な事業部制を導入している会社を除けば、部門業績だけで賞与原資を決めることにはデメリットや制約も多いため、可能であれば「会社業績」と「部門業績」の双方を採用することが望ましい。

 

以上、業績連動型の賞与原資算出ルールを設計するにあたって重要となる3つの項目について、それぞれのポイントを解説させて頂いた。なお、実際に当該ルールを導入している企業では、この3つの項目を軸にして様々なパターンの方式/計算式が採用されている。大手企業などでは、非常に複雑な計算式を採用しているケースも散見されるが、私見ではあまりに複雑な仕組みは避けるべきでと考える。特に、中堅/中小企業において、「業績連動型の賞与原資算出ルールを導入することで、社員の業績意識を高めたい」という大目的があるのであれば、できるだけシンプルで分かりやすい仕組みの設定が肝要となる。

 

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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