今、改めてキャリア自律について考える
第三回:キャリア自律が高い個人の離職を防ぎ、組織内での活躍を促すには?
教育・能力開発
本ブログのポイント
・キャリア自律が高い個人の離職を防ぎ、活躍を促すうえで、「社員がやりたいこと、こうなりたいと思っていることを、会社がどの程度実現できているか(Needs-Supplies fit)」に着目
・Needs-Supplies fitを向上させるうえでは、部下が仕事の意味を捉えなおすこと(認知的クラフティング)を、上司がサポートすることが重要
はじめに
本ブログを含めた「今、改めてキャリア自律について考える」シリーズでは、近年ますます注目を浴びているキャリア自律に焦点を当て、その意義を多角的に考察します。
第一回のブログでは主にキャリア自律のポジティブな側面に焦点を当て、「どのようにして社員のキャリア自律を高めるか」という点を解説しました。次に第二回のブログでは「キャリア自律のダークサイド」と題し、キャリア自律と離職との関係性について整理しました。なお、第二回ブログで挙げた、「高いキャリア自律が離職につながってしまう」社員の状態は、以下の4つです。
①現組織で成長を実感できない、自分の考えるキャリアを築けない
②やりたいことや今後のキャリアに対する解像度が高い
③組織外部にも選択肢がある(市場価値が高い)
④組織への愛着が低下している
これらの議論を踏まえ、第三回となる本ブログにおいては、高いキャリア自律を有する人材の離職を回避しつつ、組織内で活き活きと働いてもらうにはどうすればよいか、という点を深掘りしたいと思います。
このテーマを考えるうえで今回キーワードとして取り上げるのは、「Needs-Supplies fit(欲求-供給結合)」という概念です。Needs-Supplies fitとは、個人のニーズと組織の供給の適合度を示す概念です。平たく言うと、社員がやりたいこと、こうなりたいと思っていることを、会社がどの程度実現できているか、という程度のことです。
一般的にキャリア自律が高い個人は自身のやりたいことへの解像度が高く、かつそれを実現するというモチベーションが、組織に留まるというモチベーションよりも強くなるものと推測されます。そのため、理論的には、組織が個人のやりたいことを実現できる環境を提供できれば、キャリア自律の高い個人の離職は回避できるものと考えます。
一方、当然ながら社員が求める全ての期待に応えることは現実的に不可能です。それでは社員のやりたいこと、実現したいことを会社が直接的には提供できない場合、どのようにして社員のNeeds-Supplies fitを高めることができるのでしょうか。
本ブログでは、「職務の意味付けを通じて、現在の仕事を『やりたいこと』へ紐づける」アプローチをご提案します。この点についてのイメージを深めていただくために、以下に本アプローチの具体例を示します。
事例1:品質管理職のAさんの事例
Aさんは、「人の健康に貢献する仕事がしたい」という強い思いを持って製薬企業に入職しました。現在は品質管理部門に配属され、医薬品の品質検査を行っています。しかしながら、最近は「毎日同じ検査の繰り返し」とマンネリを感じていました。
Aさんの様子を見た上司は、過去に品質管理部門が異常を検知し、患者さんの健康被害を未然に防いだ事例を共有し、「私たちは会社の中で、最後の砦として患者さんの健康を守っている」旨を説明しました。
この対話を通じて、Aさんが元々根底に抱いていた「人の健康に貢献する仕事がしたい」という思いが現在の仕事と結びつき、Aさんは品質検査の意義を他の社員に伝える勉強会を立ち上げるまでになりました。
事例2:経理職のBさんの事例
とあるメーカーで主に月次決算を担当するBさんは、今の仕事を「数字を整理するだけの裏方仕事」と捉えていました。一方で、「会社の経営に直接関わる仕事がしたい」という志向を持っており、最近は転職や起業も検討しています。
このような状況を鑑み、上司はBさんとの面談の中で、Bさんが作成した資料が経営会議のどの意思決定に活用されたかを可能な限りフィードバックするようにしました。
自分の数字が経営の意思決定に寄与していると知ったBさんは、経理を「経営判断を支える仕事」と意味づけ直し、より踏み込んだ分析レポートまで作成するようになりました。
いかがでしょうか。ちなみに、上記のように「仕事の意味を捉えなおすこと」は、ジョブ・クラフティングの一つである認知的クラフティングとも言われています。認知的クラフティングは個人が自己調整的に実施することも可能ではありますが、別の視点を持った他者との相互作用の中で促進されるのが現実的ではないかと考えます。
上記の2つの事例では、いずれも上司がAさん、Bさんの志向性を踏まえたうえで適切な情報を提供しています。その結果、Aさん、Bさんの中で仕事の意味づけの変化と職務への紐づけが起こり、Needs-Supplies fitが高まったものと考えられます。これらの事例を踏まえると、とりわけキャリア自律が高い部下を持つ上司には、対話の中で部下の認知的クラフティングをサポートするような働きかけが求められると言えるでしょう。
おわりに
「今、改めてキャリア自律について考える」第三回では、キャリア自律が高い個人の離職を防ぎ、社内での活躍を促すうえで重要となる概念としてNeeds-Supplies fitを、そしてNeeds-Supplies fitを高める手段としての認知的クラフティングを取り上げました。
しかしながら、上司が部下に対し認知的クラフティングのサポートを適切に行ううえでは、当然ながら対象となる部下の志向性や、「何がやりたいのか」という点を認識しておく必要があります。そのような意味では、部下の仕事に対する姿勢や興味関心事など、日々の様子をしっかりと見ておく必要があるでしょう。
さて、これまで全三回に分けてキャリア自律について複数の側面から考察を行ってきました。これまでに述べてきた通り、組織にとって社員のキャリア自律は喜ばしいことである反面、離職等のリスクを一部内包することは否めません。ただし、「やりたいこと」が今の会社で実現できずに離職することは、基本的には組織と個人のいずれにとっても、不幸せなことであると考えます。
本ブログで紹介したNeeds-Supplies fitや認知的クラフティングの概念も参考に、組織と個人がお互いにとって幸せになれるような、そのような関係性の構築に取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
Edwards, J. R., & Shipp, A. J. (2007). The relationship between person-environment fit and outcomes: An integrative theoretical framework. In C. Ostroff & T. A. Judge (Eds.), The organizational frontiers series. Perspectives on organizational fit (p. 209–258). Lawrence Erlbaum Associates Publishers.
Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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