今、改めてキャリア自律について考える
第二回:キャリア自律のダークサイド-キャリア自律と離職との関係性-
教育・能力開発
本ブログのポイント
・キャリア自律と離職の関係は単純化できるものでは決してなく、対象となる社員個人の状態が大きく影響する
・キャリア自律が高いことに加え、①現組織で成長を実感できない、自分の考えるキャリアを築けない、②やりたいことや今後のキャリアに対する解像度が高い、③組織外部にも選択肢がある、④組織への愛着が低下している、といった状態が重なる社員は離職の黄色信号
はじめに
本ブログを含めた「今、改めてキャリア自律について考える」シリーズでは、近年ますます注目を浴びているキャリア自律に焦点を当て、その意義を多角的に考察します。
第一回ブログでは、そもそもキャリア自律は何かを改めて確認したうえで、キャリア自律を高める要因を職場要因と個人要因に整理しました。そのうえで、キャリア自律を促す「転機-振り返りループ」を提示し、社員のキャリア自律を高めるためには、組織が社員に対し転機を提供するだけでなく、意図的に振り返りの機会をデザインすることが肝要であると述べました。すなわち、第一回のブログでは主にキャリア自律のポジティブな側面に焦点を当て、「どのようにして社員のキャリア自律を高めるか」という点を記載しました。一般に知られているように、キャリア自律を高めることは、組織にも個人にもプラスの成果をもたらします。一方で、キャリア自律にまつわる一部の知見を踏まえると、キャリア自律を高めることが、組織にとってネガティブに働く可能性があることも想定されます。
「せっかく社員のキャリア自律を高める施策を推進したのに、逆効果だった」、「辞めてほしくない優秀な人材が転職してしまった」――そんな事態を避けるために、本ブログではまず、キャリア自律がもたらしうるネガティブな影響、とりわけ「離職との関係性」に焦点を当て、整理したいと考えます。
キャリア自律のダークサイド-キャリア自律と離職との関係性-
キャリア自律と離職との関係性は、社員個々人の状態によって大きく変化すると考えます。それでは、「高いキャリア自律が離職につながってしまう」社員とは、いったいどのような状態なのでしょうか。以下に4つの例をご紹介します。
①現組織で成長を実感できない、自分の考えるキャリアを築けない
キャリア自律のネガティブな側面を考える際、よく聞かれるのは「キャリア自律が高まると、自身の将来を真剣に考えて、辞めてしまうのではないか」という懸念です。この懸念が生じる背景には、次のようなメカニズムがあると考えられます。
すなわち、キャリア自律の高い社員ほど、自身の将来やキャリアを主体的に考える傾向が強くなります。その結果、「この会社にいても成長を実感できない」、「この会社では自分の思い描くキャリアを築けない」という状態に陥ってしまった場合、その実現の場を社外に求めるようになり、離職のリスクが高まる、ということです。
②やりたいことや今後のキャリアに対する解像度が高い
多様な業種・職種・会社規模の社員を対象に、キャリア自律と離転職意思の関係性を調査した研究があります(尾野, 2022)。それによると、20代および30代の男女においては、キャリア自律と離転職意思との間に明確な関係性は認められませんでしたが、40代の男女においてはキャリア自律の一側面である「主体的キャリア形成意欲」と離転職意思との間に正の関係性が示されています。
この理由については明確にはなっていませんが、例えば以下のような可能性が考えられます。すなわち、比較的自身のキャリア展望が不透明、あるいは明確に定まっていない20代、30代と比較すると、40代社員はキャリア展望の解像度が上がっており、その実現のエンジンであるキャリア自律が高まると、結果的に離職という選択がなされてしまう、というメカニズムです。
③組織外部にも選択肢がある(市場価値が高い)
キャリア自律と転職意向について、社員個人の市場価値の観点から検討した調査もあります(パーソル総合研究所, 2021)。本調査では、社員が考える自身の市場価値と、キャリア自律および転職意向の関係性を評価しています。その結果、市場価値が高い群では、キャリア自律が高いと転職意向が高い、一方で、市場価値が低い群では、キャリア自律が高いと転職意向が低いという非常に興味深い結果が得られています。つまり、社員が自身の市場価値をどのように捉えているかによってキャリア自律と離職とのつながりが変化する可能性がある、ということです。
④組織への愛着が低下している
最後に、キャリア自律と組織へのコミットメントとの関係性を検討している堀内・岡田(2009)の知見をご紹介します。本調査では、キャリア自律している社員は、組織のために貢献しようという「情緒的コミットメント」を有していますが、損得勘定から組織に残ろうとする「功利的コミットメント」は低いことが示されています。
この結果については解釈がなかなか難しいですが、社員のキャリア自律を高めることが組織への貢献意欲を高める一方で、金銭、人間関係、職位といった「引き止めの材料」が、離職抑制として効きづらくなることを示唆するものと考えます。もう少しかみ砕いて説明すると、キャリア自律した社員は「好きだから組織に残る」が、「損をするから組織に残る」という引き止めは効きづらい、ということです。したがって、仮に情緒的コミットメントが何らかの理由で低い状態に陥った場合、離職につながるリスクは一気に高まる可能性があります。
キャリア自律が高いが、離職リスクも高い社員とは?
以上、キャリア自律が離職につながる社員の状態について紹介させていただきました。そのうえで、改めて下記図表に、「キャリア自律→離職の可能性を高めうる4つの状態」を整理しました。これらを俯瞰して第一に言えるのは、キャリア自律と離職の関係は単純化できるものでは決してなく、対象となる社員個人の状態によって決定される、ということです。皆様の会社にも、キャリア自律が高い一方で、これら4つの状態に当てはまる社員はいないでしょうか。キャリア自律施策を推進する際は、これら4つの状態に当てはまる社員がいないかという点にも留意し、必要に応じて個別の対応を検討することが重要です。
おわりに
「今、改めてキャリア自律について考える」第二回では、キャリア自律のダークサイドとして、キャリア自律と離職との関係性を整理しました。今回のブログで伝えたいことは、第一に、組織にとって社員のキャリア自律を高めることは、諸刃の剣にもなりうるということ。第二に、キャリア自律と離職との関係性は、社員個人の状態によって大きく変わるということ。第三に、今回取り上げた知見より導いた「キャリア自律→離職の可能性を高めうる4つの状態」です。
次回ブログでは、今回の知見を踏まえたえで「キャリア自律のダークサイドを回避しつつ、ポジティブな効果を最大化するには何をすべきか」について、具体的な施策を交えながら考えていきます。
引用文献
尾野裕美. (2022). 就業者のキャリア自律と離転職意思, キャリア焦燥感との関連. 産業・組織心理学研究, 36(1), 53-63.
パーソル総合研究所. (2021). 従業員のキャリア自律に関する定量調査.
堀内泰利・岡田昌毅. (2009). キャリア自律が組織コミットメントに与える影響. 産業・組織心理学研究, 23(1), 15-28.
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

