中途採用の「報酬ミスマッチ」への対応策

即戦力人材の獲得競争が激化する中、採用候補者の希望年収が自社の賃金水準と合わず採用につながらないケースへの相談が増えています。対策としては、採用ターゲットの要件変更や金銭面以外の魅力の訴求も重要ですが、それらを尽くしてもなお金額面で折り合えないケースは往々にして存在します。その際、単に個別に給与を上乗せするか否かではなく、「報酬ミスマッチ」がどの範囲で起きているかを分析し、それに応じた解決策を講じることが重要です。本稿では賃金制度の観点から、中途採用における「報酬ミスマッチ」への具体的な対応策を解説します。

 

自社のミスマッチ状況を把握する

対応策を検討する前に、まず自社の報酬ミスマッチがどのパターンに該当するかを把握することが重要です。具体的には、選考辞退や内定辞退の理由を可能な範囲で集計し、報酬面が原因となっているケースがどの職種・年齢層に集中しているかを分析することが有効です。また、厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」のような職種別・年齢別の市場報酬データと自社の賃金水準を比較することで、乖離の大きさと範囲を客観的に把握できます。

こうした分析の結果、ミスマッチの発生パターンはおおむね以下の4つに分類できると考えます。

 

全体的にミスマッチが起きている場合

1つ目は、職種や年齢を問わず、多くの候補者に対して自社の提示額が希望額に届かず、採用が長期にわたり難航しているケースです。これは自社の賃金水準そのものが現在の市場水準から乖離している可能性があります。

この場合、根本的な対応策として賃金水準の全体的な見直しやベースアップを検討する必要があります。全社員の給与改定は経営へのインパクトが大きく、容易な決断ではありませんが、必要な人材を採用できないことによる事業への影響を踏まえると、賃金水準の見直しを決断すべき時期に来ているのかもしれません。

 

特定の職種でミスマッチが起きている場合

2つ目は、営業職やエンジニア等の専門職など、特定の職種だけが採用できないというケースです。これは、その職種の市場価値が急騰しており、全社一律の等級制度ではその変化に対応しきれていないことが要因です。

これに対しては、全社的なベースアップではなく、職種別手当の新設や別テーブルの適用が有効です。例えば、特定の専門職に対して「技術手当」を支給したり、その職種専用の給与レンジを設けたりすることで、基本給とは別の項目で賃金水準の引き上げを図ることができます。これにより、社内の他職種との内部公平性を考慮しながら、必要な人材に対して適切な処遇を用意することが可能になります。

また、DX・AI推進や新規事業開発など、既存の等級制度の上限を大きく超える報酬が求められる高度専門的な職種については、個別の報酬パッケージを設計したり、既存社員とは異なる「契約社員」としての雇用を活用したりする方法も考えられます。ただし、契約社員という雇用形態は候補者にとって不安要因となり得るため、高い報酬水準とのトレードオフとして位置づけることや、一定期間後の正社員登用を前提とした設計にするなど、合理的なメリットを併せて提示することが重要です。

 

特定の年齢層でミスマッチが起きている場合

3つ目は、特定の年齢層にミスマッチが集中しているケースです。典型的なのは若手層で、初任給相場の上昇が背景にあることが多く、自社でも初任給の引き上げや、若手層の昇給ピッチを早めるなどの調整が必要です。近年は大手企業を中心に初任給の大幅引き上げが相次いでおり、中小企業がこれまでの水準のまま据え置いていると、若手人材の確保がますます困難になります。自社の初任給や20代の給与カーブが市場と比べてどの程度乖離しているかを確認し、必要に応じて早期に手を打つことが求められます。

 

特定の階層でミスマッチが起きている場合

4つ目は、特定の階層の人材が採用できないケースです。典型的なのは管理職レベルで、報酬市場は前職の企業規模や業界水準に左右される面が大きく、同じ管理職クラスであっても企業規模や業界が異なれば報酬水準に大きな開きがあるのが実情です。そのため、大手企業や報酬水準の高い業界から管理職人材を採用しようとすると、自社の報酬テーブルでは対応しきれないケースが生じます。対応策としては、基本給は既存社員との均衡を大きく崩さない範囲に抑えつつ、賞与や業績連動報酬の比率を高めることで、成果次第で希望に近い年収水準を実現できる設計にする方法が有効です。また、特に高い専門性や経営への貢献が期待されるような“ハイエンド”人材であれば、年俸制なども含めた個別の報酬設計を検討する余地もあります。いずれも、固定費の大幅な増加を抑えながら、候補者にとって納得感のある処遇を提示するためのアプローチが必要です。

 

補足:制度改定が難しい場合の工夫

ここまで述べてきた対応策のうち、賃金水準の引き上げや制度改定を伴うものについては、総額人件費の増加が避けられません。この増加を持続可能な形で実施するには、適正な人員数のコントロールや一人当たり生産性の向上、さらには価格転嫁も含めた収益構造の見直しが求められます。いずれもすぐに実現できるものではありませんが、直近の賃上げ率の動向を踏まえつつ、中長期の要員計画や人件費計画の中に織り込んでおくことが重要です。とはいえ、こうした制度改定や原資の確保にはどうしても時間がかかります。当面の採用ニーズに対応するため、現行制度の枠内でできる工夫もあります。

一つは、入社後一定期間の「暫定格付け」です。「入社後1年間は暫定的に上位等級(希望年収相当)で処遇するが、次年度は実績に基づいて正式に格付けを見直す」と合意形成を行う方法です。これにより、制度を大きく変えることなく候補者の希望に近い処遇を提示できます。ただし、見直しの結果として等級や報酬が下がる可能性がある点は、入社前の段階で本人と十分に合意しておく必要があります。評価基準や見直し後の処遇の目安を事前に明示し、入社後に「話が違う」とならないよう丁寧な説明を行うことが必要です。

もう一つは「調整給」の支給です。等級制度上の給与では足りない差額を「調整給」として支給し、将来的に昇格して本給が上がった段階で解消する、あるいは市場価値調整としての期限付き手当とするなど、期間限定的な措置を行うことも有効です。

 

おわりに

報酬ミスマッチへの対応においては、単に金額の高低だけでなく、ミスマッチがどの範囲で・なぜ起きているかを正しく把握し、自社の人事制度の中で持続可能な形で対応することが重要です。

本稿で触れた視点を参考に、まずは自社の賃金制度が現在の市場に適合しているかを点検するとともに、制度面の見直しと当面の運用上の工夫を組み合わせながら、必要な人材の獲得と定着に向けた取り組みを進めるきっかけとしていただければ幸いです。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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