2026年の賃上げをどう考えるか

2026年の賃金改定に向けて、これから検討を進められる企業も多いことでしょう。最低賃金の大幅な引き上げ、大手企業の初任給の引き上げ報道が相次ぐ中、2026年の賃上げはどのように考えていけばよいのでしょうか。そこで今回は、2025年までの賃上げの調査結果を見ながら、来年の賃上げの予想や賃上げに対する考え方について述べてまいります。
 
<結論>
・2026年の賃上げ率の予想は昨年並み(4~5%台)
・「どの程度賃上げすべきか」ではなく、「●円の賃上げを実現するためにどうするか」を考える
 
1:2025年の賃上げの実態
以下は、厚生労働省が毎年実施している「賃金引上げ等の実態に関する調査」の10年分のデータをまとめたものです。
 

賃金引上げ等の実態に関する調査

 
これらの推移をみると、2020年以前は、規模計の賃上げ額で5,000円台(約2%程度)でしたが、コロナ禍の2021年には4,694円(1.6%台)とやや減少、2023年から大きく上昇に転じて、9,437円(3.2%)となっています。さらに2024年には11,961円(4.1%)、2025年は13.601円(4.4%)となっており、3年連続賃上げ額が上昇を続けています。
 
但し、ここで着目したい点として1000人以上規模の企業においては、連合が目標としていた5%水準をクリアしているものの、299人以下の企業では、3.6%台と前年の3.7%を下回っており、企業規模において上昇幅に大きな差異が生じていることです。報道等で見られる5%台の賃上げは、中小企業においては全く実現できていない、という実態が見えてきます。我々がご支援している企業においても、2年連続の5%の賃上げは厳しいとの声が多く聞かれる中、「なるほど」と納得できる現実的な数字が明らかになっています。
 
2:今年の賃上げ要求
さて、2026年の賃上げに向けて、連合から以下の春季生活闘争 基本構想が発表されています。
 
“社会の新たなステージを定着させるべく、全力で賃上げに取り組み、社会全体への波及をめざす。すべての働く人の生活を持続的に向上させるマクロの観点と各産業の「底上げ」「底支え」「格差是正」の取り組み強化を促す観点から、全体の賃上げの目安は、賃上げ分 3%以上7、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め 5%以上とし、その実現をめざす。中小労組などは格差是正分を積極的に要求する。”
(出典:連合「2025春季生活闘争 基本構想」)
 
今年も昨年に引き続き、定昇分も含めた5%以上の賃上げを目指す方針が明らかになっています。厳しい数字ではあるものの、賃上げ報道はこれからますます活発になってくると予想され、社員のモチベーション維持を考えると、少なくとも2025年並みの賃上げを実現していく必要があります。また今年2~3%程度しか賃上げできていない場合は、さらに引き上げていくことも視野に入れる必要があるでしょう。
 
3:今後の初任給額予想から賃上げを考える
一方で、今年も最低賃金の大幅な引き上げが行われました。
全国加重平均で1,121円(66円)となり、地域によっては80円台の引き上げなど、格差是正への取組みも見られました。最低賃金引上げの背景や今後の上昇見込みについては、先のブログ「最低賃金は今後どこまであがるのか」で詳しく述べた通り、2029年までに最低賃金は1,500円になることが見込まれます。これは政府が強い方針を打ち出しており、実現する可能性がかなり高いことが予想されます。
仮に最低賃金1,500円が実現すると、フルタイムで勤務する社員の月給は、月間労働時間160時間と仮定すると、1,500円×160時間=240,000円になることが見込まれます。
つまり24万円が、最低賃金ラインの月給となりますので、大卒を採用しようとすれば、少なくとも28万~30万円の初任給を実現していく必要がある、と考えられます。
 
例えば現在の大卒初任給が23万円の場合、2029年までに初任給を28万円まで引き上げようとすると、既存社員のベースアップも同時にしていく必要があります。仮に全員一律で5万円のベースアップをするとなれば、1人あたり5万円×12か月=60万円(法定福利費除く)となり、100人規模の企業の場合、4年間で6,000万円の人件費を捻出する必要がある、ということです。
 
4:賃上げしたいが、上げられないは通用しない
中小企業にとって本当に厳しい状況です。とはいえ、前述の通り、最低賃金の上昇、これに伴う初任給の引き上げ、昨今の賃上げ動向は、ここしばらく止められないと考えられます。
人材募集をしても全く人がこない、という声も多く聞かれる中、転職市場も活況であり、人員確保の観点からこれ以上の社員の流出も防いでいく必要があります。
そのためには、「世間並みの賃上げが実現するんだ」という強い意志を持った取組みが必要ではないでしょうか。つまり「今年は賃金をいくら引き上げればよいだろうか」という思考ではなく、「●年で、1人あたり給与を●円まで引き上げる」という明確な目標を持つ必要があると考えます。そして、そのために収益構造をどう変えて行くのか、1人当たりの生産性をどこまで引き上げられるのか、という具体的方法論を考え、確実に実行していくことが求められているのではないでしょうか。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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