ペーシング
教育・能力開発
今日は「ペーシング」について考えてみたいと思います。
ペーシングとは、コーチングなどで用いる言葉の一つですが、具体的にいうと「相手と話すスピードやリズム、声のトーン、しぐさ、行動、言葉などを合わせる」(=ペースを合わす)ことを言います。
人は、似ているものには安心感をもつ、という心理的な特性を持っており、ペーシングはその安心感を生み出すスキルのひとつです。
例えば、初めて会った人と”出身都道府県が同じ”というだけで話が盛り上がる、といった経験がおありではないでしょうか。これは前述の心理効果が働いています。誰しも初めて会った人に対しては、少し警戒心を抱いているものです。相手は自分に危害を加えないか、危険ではないかと観察します。そんな時、同じ都道府県出身だ(=似ている)とわかると急に安心感がもてる、というわけです。そういう意味で、初対面の相手とは声のトーンや話すスピードなどを合わせるところから始めると、打ち解けるまでの時間が早くなる、といえます。
クレーム対応のプロの方に伺ったお話しですが、電話クレームに対する第一声の言葉のトーン、スピード、リズムなどを相手に合わせるだけで、クレーム対応の時間が3分の1程度で済むことが多いそうです。
このペーシングは言葉や感情面でも同じです。仮に部下が「最近失敗ばかりで少し落ち込んでいます。」と話してきたとします。上司としてどのように答えますか?
「まぁそう言わずに、今が勝負時だから頑張れ!」
「じゃあ飲みにいってパーッとやろうか!」
など、上司として励ますつもりで伝えたとしましょう。
ところがこれは「ミスペーシング」(=ペースが合わせられていないこと)となっています。上司が部下の気持ちに沿った言葉をかけていないからです。これでは励ましたつもりが、逆効果となる可能性があります。
そんな言葉を聞いた部下は(心の中で)
「落ち込んでいるのに頑張れない」
「飲みに行く気分じゃない」
と反発の気持ちを持ってしまうかも知れません。これでは、解決に向けた自発的な行動を引き出すことができません。ではどうすればよいのか?
こんな時は、まずは部下の言葉や感情に合わせて、
「そうか。失敗で落ち込んでいるのか」といった相手の気持ちに沿った言葉をかけるところから話を始めましょう。できれば声のトーンやリズムも合わせます。
そうすることで、部下にとって「安心して話せる環境」を創りだすことができます。上司がゆっくりとペーシングをしながら話を聴いていけば、部下の方から解決策を見出す姿勢が生まれてくるかも知れません。また話を受け止めた後に上司からのアドバイスをすれば、すんなりと受け入れることができる場合もあります。
部下の話に対して、第一声でミスペーシングしていないか、少し振り返っていただければと思います。
執筆者
川北 智奈美
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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