賃金設計講座(2) 諸手当の設計について⑤
賃金制度
「家族手当」の定義とトレンド
家族手当は、社員が扶養している家族の状況に応じて支給される手当である。「属人的手当」の代表的なものであると言える。家族の扶養有無や構成状況は、極論すれば業務遂行とは無縁のものであるため、成果主義や職務・役割主義に基づく賃金とは対極をなす給与項目となる。
従って、90年代後半からの成果主義ブームの中では、この家族手当は真っ先に廃止の対象となった。家族手当や住宅手当のような属人的手当は廃止し、役割や能力に基づく基本給に一本化するのが当時の傾向であった。
それでは、日本企業におけるここ最近の家族手当の採用率は非常に低いものになっているかというと、実はそうでもない。調査機関や業種・規模等によってデータが異なるため一概には言えないが、少なくとも過半数の企業は家族手当を引き続き導入しているようである。90年代までと比べればその導入割合は減ったと思われるが、依然として半分以上の企業は継続しているのである。
さらに最近のトレンドを述べると、家族手当の金額を増やしたり、支給対象範囲を拡大するケースもでてきている。実際、小生の担当先でもそのような見直しを行ったクライアントが複数ある。”成果主義の揺り戻し”といような安易な理由ではなく、少子高齢化の中で改めて家族手当の意義や必要性が見直されつつあることの結果であろう。
(※なお、今から4年ほど前の小生のブログ「家族手当の是非」も併せてご一読いただければ幸いです)
以下では、家族手当の設計にあたり特に留意すべき3つのポイントについて解説する。
1.家族手当の「これからの支給目的」を明確にする
基本的な考え方としては、扶養家族の状況に応じて生計費は異なるため、それを補てんするというのが一般的な目的であろう。但し、ここで言う支給目的とは、さらに深堀した目的を指している。すなわち、これからの社会情勢や自社の人員構成などを踏まえた上で、家族手当の”今後のあり方”を明確にすべきであるということである。
単に、扶養家族がいる社員には手当を支給します・・・だけでは、成果主義や職務・役割主義の考え方が根付きつつある昨今において、一部の社員(特に若手・独身で優秀な社員)の納得を得ることは難しい。例えば「少子化傾向の中で、自社でも次世代育成支援の考え方に基づいて家族手当を支給する」や「高齢化社会の中で、会社としても社員の家族介護を支援するために家族手当を支給する」といったように、しっかりとした支給目的を掲げることが必要である。
また、当然ではあるが、その支給目的の内容に従って、支給要件や支給金額を合理性のある中身にしていくことが求められる。(例:次世代育成支援が目的であれば、子供に対する支給金額を多くする・・・など)
2.支給要件は十分に精査・検討した上で設計を行う
手当の設計においては、「支給要件」と「支給水準」という2つの重要な観点があることは前々回のブログで述べた通りである。家族手当の場合は、特に「支給要件」の設定が肝となる。
一口に支給要件といっても、家族手当の場合には、「所得」「家族の範囲」「同居の有無」「年齢」「上限人数」など複数の項目がある。
これらの項目ごとに、具体的にどのような支給要件を設定するかをあらかじめ十分に検討した上で設計を行わないと、支給対象者が想定外に膨らんでしまうことがあるので、注意が必要である。
3.支給要件のうち、所得要件の「判定時期」の設定に注意する
実務上でしばしば問題となる点であり、筆者もクライアント先の担当者から何度か相談を受けたことがある。
例えば、家族手当の支給対象者に「配偶者」を含めている場合、よくあるケースとして、配偶者の所得要件を「所得税法上の控除対象配偶者であること」と設定している。すなわち、給与年収ベースで103万円以下ということになる。
その際に問題となるのが、年始の時点では配偶者の予定年収が103万円以下であったため家族手当の支給対象としていたものの、年の途中で実年収が103万円を超えてしまった場合である。この時、所得要件の判定時期を明確にしておかないと、該当社員との間でもめることになりかねない。
上記のケースについては、判定時期として2つのパターンが考えられる。一つ目は【今年の年収で今年の支給要件を判定するパターン】であり、もう一つが【昨年の年収で今年の支給要件を判定するパターン】である。一概にどちらが良い(もしくは悪い)とは言えないが、人事担当者の手間や社員への影響を考慮すると、タイムラグはあるものの後者の方が運用しやすいと思われる。
次回(以降)のブログでは、「住宅手当」について設計のポイントや留意点などについて解説をしていきたいと思う。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。