賃金設計講座(2) 諸手当の設計について④

前回のブログでは、諸手当の設計に際して重要なポイントとなる「支給要件」と「支給水準」について述べた。今回からの数回のブログでは、個別の具体的な手当ごとに解説していくこととする。
 
まず最初に取り上げる諸手当は「役職手当」である。
 
「役職手当」の定義とトレンド
役職手当は、組織内で担っている役職・職位の種類ごとに支給される手当である。組織内で一定レベル以上の役職に就けば、相応の管理責任が発生するのが通常であるため、担うべき職責の”重さ”に応じた手当が該当者には支給されることになる。
 
以前のブログにおいて、日本企業では賃金の決定要素として「職務」を採用するケースが欧米と比べると格段に少ないと述べたが、こと役職手当についてのみ言えば、これは「職務」をベースとした賃金である。但し、日本企業が一般的に導入している役職手当は、例えば「部長であれば職種や部門に関係なく一律●●円」というように、職種による違いまでは金額に反映していないケースが多い。その点を踏まえると、日本企業における役職手当は、厳密に言えば「職務」というよりも「役割」に基づいた賃金ということになる。
 
役職手当の導入割合であるが、ここでは詳細な数値は割愛させていただくものの、複数の調査結果において高い導入率を示している。ここ最近のトレンドとして、基本給自体を役割給として設定するケースも増えてきているので、以前と比べれば「役職手当」としての純粋な採用率は下がっているかもしれないが、それでも諸手当の中では導入割合の高い手当の一つである。
 
以下では、役職手当の設計にあたり特に留意すべき3つのポイントについて解説する。
 
1.役職手当の水準は、自社の状況(給与構成・企業規模等)を踏まえて設定する
役職手当の世間水準については、複数の調査機関がデータを公表しているので、それらを参考にしていただければある程度の相場水準は把握できる。但し注意点としては、前回のブログでも述べた通り、給与の構成割合によって自社にとっての”妥当な水準”は変化するということである。前述のように、例えば基本給として役割給を採用しており、給与全体に占める役割給の比重を高く設定しているような場合には、役職手当の金額は世間水準よりも低くて然るべきということもある。
 
また、そもそも同じ役職名であっても、企業の規模や組織の構成などによって、担うべき役割や職責の重さは企業ごとに違ってくる。
従って、目安として世間水準を参考にするのは良いがが、あくまでも自社の状況を踏まえて役職手当の金額を設定することが大切である。
 
2.「逆転現象」を可能な限り”回避”できるような水準を設定する 
小職はこれまで数多くのお客様から人事制度の諸問題についてヒアリングさせていただく機会を得てきたが、度々相談される問題の一つがこの「逆転現象の発生」である。ここで言う「逆転現象」とは、「残業代の支給対象ではない管理職(管理監督者)の給与を、残業代の支給対象である非管理職の給与が超えてしまうという現象」を指している。
 
このような逆転現象を月給ベースで回避するためには、基本給と役職手当の双方で一定の格差を設定しておくことが必要になる。但し、基本給については、非管理職から管理職に昇格した直後はそれほど差がつかない(もしくは差をつけにくい)場合も多いので、役職手当の方で然るべき格差を設定しておくことが特に重要となってくる。具体的には、管理職の役職手当の金額は、非管理職の残業代相当分を十分に見込んだ上で設定しておくことが必要である。
 
3.「呼称」としての役職ではなく、「組織上」の役職を支給要件とする 
例えば営業社員が多いような会社では、営業時の対外面を考慮して、組織上での実際の役職・役割よりも”かさ上げした”役職を名刺に記載するケースがよくある。営業施策上では必要性の高い措置であり、それ自体に特段の問題はないものの、こと役職手当の支給となれば話は変わってくる。
 
たとえ上記のような「対外呼称」を導入している場合であっても、役職手当の支給要件については「組織上での実際の役職・役割に応じて支給する」というルールにすべきである。役職手当が「役割」をベースとした賃金である以上、実際に担っている役割・職責の重さに応じて役職手当を支給することに、この手当を導入する意味があるからである。
 
次回(以降)のブログでは、「家族手当」について設計のポイントや留意点などについて解説をしていきたいと思う。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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