評価ランク決定は絶対評価?相対評価?

人事評価の結果を給与や処遇に反映する際、評価点数に基づき評価ランク(S~Dなど)を決定しているケースを多く見受けます。その際に議論となりやすいのは、評価ランクをどのように決定すべきか、特に絶対評価と相対評価のどちらを採用するのか、というテーマです。
 
絶対評価とは、あらかじめ設定された点数テーブルに基づき、例えば「75点以上ならS評価」「65点以上75点未満ならA評価」といった形で、評価点数を評価ランクに直結させて決定する方法です(図①)。一方で相対評価は、評価対象者を母集団内で比較し、あらかじめ定められた分布に沿って評価ランクを決定する方法です(図②)。
 
本稿の結論を先にお伝えすると、「どちらか一方のみが正解というわけではない」ということです。絶対評価と相対評価にはいずれも長所と短所があります。重要なのは、二者択一で選ぶことではなく、それぞれの長所を活かしつつ、仕組みや運用上の工夫によって短所を補うことだと考えます。
上記を踏まえたうえで、本稿では特に問題となりやすい短所と、その対応方法の例を解説します。
 
※本稿では、評価プロセスを「①各評価点数の決定 → ②合計評点の算出 → ③評価ランクへの変換」と定義しています。今回は点数の付け方そのものではなく、③の「合計評点を最終ランク(S~D等)に変換する手続き」に焦点を当て、絶対評価・相対評価それぞれが抱える短所への対応策について解説します。
 

画像名称

 

絶対評価
絶対評価の主な長所は、相対評価よりも評価ランク決定の基準が明確であり、社員の納得を得やすいという点です。この点は特に、評価ランクを昇格や降格の要件として活用する際に顕著です。多くの企業では昇格や降格の要件として人事評価結果を用いていますが、絶対評価であれば、周囲の成績や人数の枠に左右されず、評価点が昇降格の基準として機能します。
一方で絶対評価の主な短所は、人件費コントロールが困難な点です。多くの企業では、「S評価なら標準評価比で賞与〇割増」「A評価なら基本給〇円昇給」といったように、賞与や昇給を評価ランクと紐づけた運用をしています。しかし上司が部下の処遇を上げてあげたいという心理から評価が上振れし、結果として賞与や昇給の原資が想定以上に高騰するといった懸念があります。
 
このような場合、対策として相対評価を使用すること以外に、賞与算定方法として「ポイント制」を導入するということも考えられます。ポイント制とは、評価ランクごとの支給額や割増率を固定せず、次のような手順で賞与支給額を決定する方法です(図③)。まず評価結果と等級等に基づくマトリクスを使用して、社員ごとのポイントを決定します。次に賞与原資を全社員の獲得総ポイントで割り、1ポイントあたりの単価を算出します。そして各社員のポイントにポイント単価を掛け合わせて賞与支給額を決定します。この方法であれば、仮に全員が高評価を取った場合でも、賞与原資総額の範囲内で賞与支給額が調整されることになります。絶対評価のわかりやすさを維持しつつ、人件費コントロールを両立することができます。
 

画像名称

 

相対評価
相対評価の主な長所は、評価ランクの分布を調整することにより、機械的に評価ランクのメリハリがつけやすく、また人件費コントロールが容易な点です。
 
一方でいくつかの短所があります。まず対象となる人数が少ない場合には、そもそも相対評価の分布ルールを適用することが非現実的という点です。例えば5名の部署で「S評価は上位5%」というルールを適用しようとすると、計算上対象者が1人にも満たず実質的に枠を割り振ることができないといったケースが生じるからです。その場合は、無理に分布を適用せず、評価点数がそのまま評価ランクに直結する絶対評価を採用する方が適しています。
 
また、社員の納得を得にくいという短所もあります。評価点数の傾向や、周囲の比較対象のレベルによって、同じ点数であっても評価ランクが左右されることになります。そのため、「努力の結果ではなく周囲との相対差で決まる」「組織都合で調整されている」という印象を与えやすくなります。その場合、フィードバック時には相対評価による評価ランク結果の通知だけでなく、個人の成果や成長に対する評価結果(承認)もしっかりと伝える等、社員の納得感とモチベーションを維持する工夫が求められます。
 
また相対評価を活用する際の違和感としてよく耳にするのが、評価ランク決定における柔軟性のなさです。特に際立った成果を上げた社員や、期待を著しく下回る社員がいるわけでもないのに、相対分布に従い最上位や最下位の評価ランクを一定の割合で割り当てざるを得ない、という問題です。
このような場合の対応方法としては、絶対評価により評価ランクを決定する方法が考えられます。また図④のように、最上位や最下位の評価は分布ではなく都度の判断で決定する方法もあります。この方式であれば、相対評価の長所である人件費コントロールと、運用の柔軟性の両立を図ることができます。

 

画像名称

 

まとめ
本稿では、絶対評価と相対評価の特徴を整理し、それぞれが抱える短所への対応策について解説しました。評価ランクの決定に万能な手法はありませんが、自社の状況や課題に合わせて運用やルールを工夫することで、評価の納得度や人件費の管理効率を高めることは可能です。 もし上述した悩みや課題に直面されているようでしたら、本稿の解決策を参考にしていただければ幸いです。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー