賃上げの裏で疲弊する管理職の貢献にどう報いるべきか?
賃金制度
賃上げに置いて行かれる管理職
筆者が人事制度改定を支援するなかで、「管理職が疲弊している。人事制度の観点から、何か報いる方法はないだろうか」といった相談を、複数の企業より受けました。具体的には、初任給や若手社員の給与の引上げに原資を優先的に配分せざるを得ず、管理職の処遇に関する検討は後回しになってしまう、しかしながら管理職こそが組織運営の要であり、彼らに対してモチベーションを維持できるような施策はないかという内容でした。
この企業と同様、会社として賃上げに取り組んでいるとはいえ、もともと給与水準の高い管理職層は賃上げの程度が若手と比べて限定的、もしくはそもそも賃上げの対象にもされないといった企業は多いのではないでしょうか。
一方で、管理職に求められるマネジメントの難易度や負担が年々高まっているというのも事実です。例えば事業環境が変化するスピードは年々速くなっており、それに対応して素早く的確に意思決定をし続ける必要があります。また若手の価値観が多様化するなか、そのような部下と適切にコミュニケーションを取り、早期に育成し戦力化することも求められています。こうした管理職の負担の高まりに対して適切に報いることを後回しにし続けてしまうと、やがては疲弊し離職につながることも懸念されます。
対応方法の一例:制度と運用の両面でのアプローチ
冒頭にてご相談いただいた企業ではいずれも、管理職の評価は目標管理によるもののみ、またその結果を踏まえて賞与支給額が決まる仕組みとなっていました。また給与は役割給となっており、昇進しなければ昇給しない仕組みとなっていました。そのため、成果以外の貢献が評価されにくいがために日々のマネジメント業務への意欲が削がれやすい、かつ昇給の目途がなかなか立たないために中長期的にモチベーションを維持しにくい制度となっていました。
そこで、限られた人件費の中でいかに管理職の貢献を評価しモチベーションを高めていくのかをテーマとし、制度改定の方向性を検討しました。具体的な改定内容として、制度面では従来の目標管理による評価にくわえて、人材育成をはじめとする期待役割貢献に関する定性評価を追加しました。そして役割給を維持したまま、その定性評価の結果を反映させるようにしました。その際、人件費が上昇し続けることの回避を企図し、下表のような「洗い替え方式」を採用しました。
評価ランクごとの役割給支給額 |
||||||
D | C | B | A | S | ||
役職 |
部長 | 580,000 | 600,000 | 620,000 | 640,000 | 660,000 |
次長 | 490,000 | 500,000 | 510,000 | 520,000 | 530,000 | |
課長 | 450,000 | 460,000 | 470,000 | 480,000 | 490,000 |
※洗い替え方式:評価結果に応じて直接的に支給額を決定する仕組み
あわせて、特にプレイングマネージャーとしての負担が大きい課長層をターゲットとし、部長による月1回の1 on 1での面談によって日頃の業務に対するサポートと承認の場とするといった、運用面の強化も図りました。このように成果業績以外も含めた管理職としての貢献を金銭的・非金銭的に評価される仕組みとし、モチベーションの維持・向上を図りました。
ここで述べた対応方法は一例にすぎません。とはいえ人材マネジメントにおいては、賃上げの裏で疲弊する管理職にどのように報いるのかといった観点が、今後ますます重要となるといえるのではないでしょうか。
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執筆者

田中 宏明
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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