2025年の賃上げ動向 ~ベースアップ実施は大企業で7割、中小企業で6割

2025年の賃上げに関するニュースが連日報道されています。

東京商工リサーチが毎年行っている賃上げ調査の2025年2月20日発表分によりますと、2025年に賃上げを予定している企業が85.2%と、昨年の84.2%から1ポイント上回り、最近では最も高い調査結果となっています。(図表①)

 

賃上げ動向 年度推移

 

ただし、賃上げ率自体は今年や昨年だけが特別に高いわけではありません。

厚生労働省が毎年行っている「賃金引上げ等の実態に関する調査」の過去10年のデータを集計すると、「1人平均賃金を引き上げる(引き上げた)」と回答した企業割合は、2020年のコロナ禍の時期を除き、企業規模を問わず80%以上、300人以上の規模では90%以上を推移しています。(図表②)つまり、賃上げを実施している企業の割合は、毎年同程度であることがわかります。

※「賃上げ」という言葉で、少し誤解されがちな点について補足しておきますと、賃上げには「ベースアップ」と「定期昇給」が含まれており、これまで通りの定期昇給を行っていても「賃上げ」に含まれている、という点です。

 

賃上げ率の推移

 

1:賃上げ実施の内容 ~定期昇給、ベースアップ、賞与増額など~

では、実際に定期昇給以外にベースアップを予定している企業はどの程度なのか。先に述べた東京商工リサーチの調査によれば、賃上げを予定している企業のうち、ベースアップをする企業は大企業で69.88%、中小企業では58.53%となっており、中小企業が10%程度低い結果になっています。

そもそも中小企業では、バブル期以降、ベースアップという考え方がない企業の割合が高く、ここ数年の賃上げ動向により、対応する企業が増えはじめているといえます。ただし、固定的な賃金全体を引き上げることになるベースアップをすることはハードルが高いため、実施できていないケースも多くみられます。

ベースアップには至らないまでも、定期昇給率を引き上げて対応している企業もあります。同調査によると、2025年の定期昇給率は2%~4%未満の企業が6割を占めています。2017年以前は、賃上げ率そのものが2%未満で収まっていましたので、昨年から今年にかけて定期昇給率は少なくとも1.5倍~2倍近くになっているといえます。

また賃上げを「賞与(一時金)の増額」で対応をしている企業が、中小企業で45.32%と半数近くあり、ベースアップなどの固定的な給与部分の引き上げよりも、賞与で対応をされているケースが多いことがわかります。

さらに初任給の引き上げに関しては、大企業では今年もさらに引上げを予定している企業が45.32%と半数近くあるのに対して、中小企業では26.67%となっています。人材の採用・定着を考えると「上げたいが上げられない」というところが実態ではないでしょうか。

 

賃上げの内容

 

2:2025年の賃上げ率はどの程度か

では、実際の賃上げ率(ベースアップと定期昇給を含む)はどの程度を予定している企業が多いのか。これについても調査データがでています。図表④で、賃上げを予定している企業の賃上げ率を見ると、大企業では中央値で4.0%、中小企業では3.5%となっており、全体として企業規模を問わず、3%~4%程度の賃上げが見込まれることがわかります。特に中小企業でも、5%以上の賃上げを予定している企業が27.09%となっており、大企業と比較して大きな開きはありません。

ただしこの調査結果から見ると、連合が2025年の春闘方針として示している、全体「5%以上」、中小企業「6%以上」という目標を達成するのは、厳しいのではないかと予想されます。

 

賃上げ率(全体)

 

3:賃上げのための価格転嫁はどこまで進んでいるのか

一方で賃上げを実施しない企業にその理由を聞いたところ、「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰している」が49.5%、「コスト増加分を十分に価格転嫁できていない」が48.6%と並んでいます。

 

さらに今回は、賃上げの実施状況別の価格転嫁割合についても、調査が実施されています。図表⑤を見ると、賃上げを実施する企業と実施しない企業では価格転嫁の進捗状況に差異が生じています。賃上げを実施する企業では、価格転嫁できていない企業の割合が17.38%であるのに対して、賃上げを実施しない企業では36.49%と、3割を超えています。さらに価格転嫁が1割程度に留まっている企業の割合30.81%と合わせると、実に3分の2の企業で価格転嫁が進んでいないことになります。価格転嫁が進まない理由は、もはや「進められない企業側の問題」で済ませられることではありません。

 

賃上げ実施状況別 価格転嫁割合

 

4:まとめ

ここまで、東京商工リサーチの2025年2月賃上げアンケート調査結果をもとに解説をしてきました。

 

連合の6%という中小企業の賃上げ目標はやや厳しいと予想されるものの、2025年も昨年に引き続いて少なくとも3%程度、また中小企業でも5%近い賃上げを予定している企業もあります。

賃上げできる企業とできない企業では、益々賃金格差が大きくなり、人材の採用・定着面でも大きな影響となっていくことが予想されます。

 

物価の上昇により、社員の生活を考えると賃上げは必須である、という認識は経営者であれば誰しも思うところかと思われますが、原材料費や燃料の高騰も重なり、企業努力だけでは追いつきません。

賃上げの流れは今年だけでなく、少なくともあと5年程度は続くと予想される中、一定の価格転嫁が進むことがカギではあるものの、転嫁する側の努力だけではなく、される側も含めて業界全体で関係企業を支える構造的な見直しが必要ではないかと考えます。さもなくば、業界全体の競争力が弱まってしまいます。

企業業績の上昇と賃上げの流れが良い循環となっていくためには、各企業が自社利益だけに目を向けるのではなく、全体感をもった意思決定をしていくことが求められています。

 

資料出所:東京商工リサーチ  2024年2月「賃上げ」に関するアンケート調査

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200988_1527.html

 

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■2025年の賃上げ見通しと、賃上げ率の計算方法

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執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 シニアマネジャー)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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