リアルタイム評価制度は社員の成長に繋がるのか?

「事業展開や職務内容の変化に対して、その時の状況に合わせた評価をしてほしい」
「1年単位の評価結果では、個々の業務に対する評価が十分に明示されず、改善するための行動が明確になりにくい」
皆様の企業でもこのような声を聞いたことがあるのではないでしょうか。そして、これらの課題に対処する手段としてリアルタイム評価制度が注目されています。
 
リアルタイム評価制度とは
リアルタイム評価制度とは、1カ月~3カ月に1度のような短期間・高頻度で評価を行う人事評価手法です。リアルタイムに評価した結果は給与・賞与へ反映されます。リアルタイム評価制度は直近の仕事に対して評価を行うため、被評価者の納得度を高めやすく、かつ柔軟な目標設定と軌道修正を行いやすいことから注目されています。
 
※なお、リアルタイム評価とリアルタイムフィードバックという言葉がありますが、本記事ではあくまでも評価結果を給与・賞与へ反映させることを前提とした、人事評価手法としてのリアルタイム評価について述べるものとします。
 
リアルタイム評価制度の効果と懸念点
リアルタイム評価制度の効果としては、以下が挙げられます。
 
【納得性の向上】

・評価者と被評価者の密なコミュニケーションによって評価への納得感が向上する

・評価結果と給与改定・賞与支給がタイムリーに直結し、貢献が報われる実感が向上する

 
【柔軟性の強化】
・事業動向や職務内容の変化に即した目標設定、評価決定が可能となる
 
【具体性の向上】

・タイムリーな評価によって、取り組んだ業務の記憶が鮮明なうちに評価が可能となる

・直近の事実に基づく具体的な改善点や今後の方針が示され、改善に向けた行動が取りやすくなる

 
一方、懸念点としては以下が挙げられます。
 
【人材育成の阻害】

・短期間での評価が、被評価者への中長期的な成長支援視点を妨げるリスクがある

・被評価者が目先の仕事だけに過度に集中してしまうリスクがある

 
【運用負荷増大】
・評価実施回数が増え、上司の管理負荷や人事担当者の評価運用負荷が高まる
 

リアルタイム評価制度は人材育成に効果があるのか?
前述の通り、リアルタイム評価制度の導入には複数の効果が期待できます。しかし、この制度が「人材育成」という人事評価制度の重要な役割に効果があるのかについては、疑問が残ります。
リアルタイム評価制度はタイムリーなフィードバックを提供でき、被評価者が指摘やアドバイスをより頻繁に受けられる環境を生み出します。これにより、被評価者は短期間で成長のためのPDCAサイクルを回しやすくなります。また、評価結果が給与や賞与に頻繁に反映されることで、モチベーションの向上にも繋がるでしょう。
 
ただし、前述の懸念点に挙げたように、被評価者の中長期的な成長視点を奪うおそれがあります。たとえば、新人社員に対して短期間で成果を求めるプレッシャーがかかると、時間をかけて習得すべきスキルに集中することが難しくなる場合があります。
また、成長速度が比較的遅い社員は初期段階で高評価を得るのが難しく、モチベーションや自信を保つことが困難になり、成長を阻害するリスクも考えられます。
 
以上を踏まえると、評価のプレッシャーがない状態での日々のコミュニケーションや1on1でのフィードバックを行うなど、リアルタイム評価制度ではない他の施策を講じる方が、人材育成やさらに納得性の向上にも効果的とも考えられます。
また、職種や部門ごとの評価項目設定や評価基準の明文化など、具体的な評価制度構築を行うことで、人材育成強化に繋がる評価制度を実現する考え方も検討できるでしょう。
 
まとめ
リアルタイム評価制度は、年次や半期単位での人事評価において欠けがちなタイムリー性に重きを置いた仕組みです。特に、ベンチャーやスタートアップ企業のように事業成長や組織変化、業界動向が急速に変わる環境では、この制度を活用することで短期間での目標達成やPDCAサイクルの促進に効果があると考えられます。
しかし、導入に伴う運用負荷を考えると一定のリスクも存在します。また、中長期的な視点で人材育成を進める場合、リアルタイム評価制度は必ずしも適しているとは言えないでしょう。
「流行っているから」や「即効性が期待できるから」といった理由だけで導入するのではなく、自社の人事評価制度の目的や狙いがリアルタイム評価制度の効果と一致しているか、実現性を加味し十分に検討することが重要です。

執筆者

松本 真樹 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職ではIT企業のカスタマーサクセス部門にて顧客人事部門の業務改善に取り組む。
現場の”人”に関する課題に多く触れる中で、組織における人事評価機能の重要性を体感する。
納得度が高い人事評価実現のための制度構築・運用を支援したいと考え新経営サービスに入社。
顧客に寄り添ったコンサルティングを心掛けている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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