制度やスキルだけで人は育たない! 人を育てる極意①

悩み多き人材育成
人材育成はどの企業も悩みの種である。
松下幸之助氏は、「物をつくるまえに人をつくる」と言い、スティーブ・ジョブズ氏は、「即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ」と言ったそうだ。
経営をしていたら、人を育てることの重要性は身に染みて分かる。
 
自分で勝手に育ってくれる人、あるいはどんな環境でも育つ人ばかりなら、それほど問題はないかもしれない。
確かにそういう人は存在する。しかし、そうは問屋が卸さない。
そんな(自分のように?)都合の良い人ばかりではないし、そういう人でさえ、それほど自分の思うようには育たない。いや育つものでもない。
ゆえに、人を育てることは悩むことばかり。実に難しい。
 
育てるマインド
だからこそ、人を育てる“力”を身につけなければならない。
傾聴力、質問力、承認力、論理的思考力、言語化能力、コーチング力、指導力・・・。身につけなければならない“力”は山ほどある。
 
しかし、いくらこれらの“力”があったとしても、忘れてはならないことがあるように思う。
すなわち、育てる立場にある者が、育つ立場にある人とどう向きあうのか? そして、自分自身とどう向き合うのか? さらに、人の成長をどう捉えるのか?といった“居り方”“考え方”“心構え”のことである。
換言すれば、“育てるマインド”とも言えるものである。
それは、私がこれまで多くの企業の経営者や管理職の方々から伺った体験、そして私自身、日々、試行錯誤し、悪戦苦闘し、臥薪嘗胆している経験から、いま強く思うことでもある。
この“育てるマインド”について、“人を育てる極意”と銘打って、数回に分けて書き綴っていきたい。

 
人として対等である
まずは、「育つ立場にある人(部下や後輩など)とどう向き合うのか?」から、書き始めてみたいと思う。
 
第一に、一番根本的に持っておくべきことは、“人として対等である”という至極当たり前のことである。当たり前のことであるが、つい忘れがちなことでもある。
 
育てる側と育てられる側。
意識しないと、自然に、育てる側が“上”で、育てられる側は“下”という構図ができあがってしまう。 
そうすると、育てる側が偉くなったような錯覚を覚える。
だから、対等であることを忘れがちになりやすい。
 
この錯覚に陥ってしまうと、いわゆる“上から目線”で人を“教える”という言動・態度として表れる。
極端に言えば、よく知っている・経験している=優れている「私」が、まだ何も知らない・経験していない=劣っている「あなた」に忙しい時間をわざわざ割いて教えて上げている、となる。
 
この状況は育つ側の立場に立つと、偉そうな態度が鼻につき、言っていることは正しくても、耳を塞いでしまう。
あるいは、できないことに対する育てる人の嘲りや侮りが育てられる側の心を閉ざしてしまう。
 
こうなると人材育成は滞ってしまう。
停滞するならまだ軽症で済むが、人間関係をこじらせ重症になると育成どころか定着さえままならない事態になる。
 
だから、自戒の念も込めつつであるが…
「たまたま、いまこの場面においては、育てる側と育つ側という関係ではあるが、年齢や勤続年数や能力の有無等によらず、“人としては対等である”」という基本を忘れてないか? 常に自問自答することが大切である。
 
この前提が、育つ側の耳を開き、心を開く。この開かれた関係を築くことが人材育成の出発点と言えるのではないだろうか。
但し、たとえ耳の痛いことでも、心を閉ざしてしまうリスクを犯してでも、心を鬼にして言わなければならない時がある(これについては、次回以降触れてみたいと思う)。
しかし、あくまで、この開かれた関係であることが前提にあることに違いはない。
ちなみに、“教える”や“育てる”という言葉ではなく、その人の成長を“支援する”という言葉を日常的に使うことも具体的な実践方法のひとつである。
 

以上、今回は、まず育つマインドの大前提として、“人として対等である”ことについて述べた。
次回も、「育つ立場にある人(部下や後輩など)とどう向き合うのか?」について触れてみたいと思う。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

自社の経営に携わりながら、人材・組織開発、経営計画策定、経営相談など、幅広くクライアント業務に従事。中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、17年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら、バランス感覚を備えた、本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント/GCDF-Japanキャリアカウンセラー
iWAMプラクティショナートレーナー

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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