企業はSNSによる「炎上」トラブルにどのように対応すべきか
労務関連
アルバイト店員によるSNSでの悪ふざけをきっかけにした「炎上」が多発したのは2013年のこと。ある企業の店舗が炎上をきっかけに閉店したという強烈なニュースが記憶に新しい。最近では事例こそ減ったものの、特に飲食店を中心として、社員のSNS利用による炎上はリスクマネジメント上重要なテーマになっていることは間違いない。にも係らず、多くの企業では対策が十分に出来ているとは言い難い。たちまち問題になることではないから優先順位が下がるのも理解できるのだが、対岸の火事と侮らず、特に事前予防には一定の力を注ぐべきである。
先行企業の事例に学ぶところは多い。日本アイ・ビー・エムは、早くからこの問題に取り組んでいる企業として有名だ。世界共通の行動規範であるBCG(ビジネス・コンダクト・ガイドライン)を基にしたSCG(ソーシャル・コンピューティング・ガイドライン)を2005年に設けており、その後SNSの普及に合わせて何度も改良を重ねてきている。
12項目で構成されるSCGは同社のHPで確認できるが、
①身元(氏名、必要に応じてIBMでの職務)を明らかにし、必ず一人称を使うこと
②免責文を入れること
(このサイトの掲載内容は私自身の見解であり、必ずしもIBMの立場、戦略、意見を
代表するものではありません)
③著作権を侵害しないこと
④機密情報を公開しないこと
⑤承認を得ずに顧客や取引先の情報を出さないこと
などは他社でも参考にしたい事項である。
何より大切なことは、分かりやすいガイドラインがあり、その教育を徹底すること。同社では、セキュリティ対策に関するeラーニングを年1回義務付けたり、事例共有のためのコミュニティミーティングを通じた啓発活動も積極的に行っている。「うちはそんなことやる時間無いよ」というところもあるだろうが、トラブルが起こる最大の原因は「SNSリスクに対する認識不足」(発信する個人も、企業も)であることを考えれば、時間的余裕に係らず定期的に実施すべきである。
また、企業としては万が一に備えて法的な側面でも準備をしておくことが求められる。
例えば次のような対策が考えられるだろう。
①誓約書をとること:
社内ガイドラインを策定し、その内容について全社員から誓約書をっておくことが、ありきた
りではあるが有効である。
正社員は当然のこと、世間の例を見ると、パート・アルバイトなど一般的に会社に対するロイ
ヤリティーの低い者を優先して誓約書をとっておきたい。
②就業規則による記載と、懲戒規定への追加と告知:
SNS利用に関して、一般的な社員の遵守事項と、違反した場合の懲戒規定を追加しておくこ
とが有効である。加えて、その旨を全社に告知しておくことで、一定の歯止めが期待できる
(懲戒だけに止まらず、会社に与える損害の程度によっては損害賠償請求もありうることを併
せて告知)。
以上、繰り返すが、これら問題の多くは「SNS利用に対するリスクの認識不足」からきているものが多く、解消するにはリテラシーを高めるための教育の徹底と情報共有の仕組み作りが大切である。そして、意識を浸透させるためにはこうした活動をリピートし続けるしかない。今の時代、「何か起きてからでは遅い」のであって、無防備はあまりに怖い。最初から立派なガイドラインが出来る必要は無いので、全く何もやっていないという企業は、まずは啓蒙の機会を社内で作るところから始めてみてほしい。
執筆者
森中 謙介
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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