部下の目標を絞り込む

先日、初めて伺ったお客様先で気がかりなことがありました。
目標管理を運用されており、それを評価にも活用しておられるのですが、その目標設定の数が10個もあるのです。
もちろんそれ以外にも、業績評価や職務プロセス評価などもあり、「評価するだけで大変そうですね。」とお話しすると、「そうなんですよ。社員からはそのような声が上がっています。」とのことでした。
目標設定数が3~5つ程度という企業はよくありますが、さすがに10個という設定数は初めてみましたので、少し驚きました。
「実際に運用されていて、問題は生じていますか?」と伺うと、①形骸化してしまっている。②1年後に成果確認をするのみなので、人によって達成状況に大きな開きがある。③確実に達成できているのは業績数値の目標が中心となっている。④本人ですら目標設定シートを見ないと、目標内容がわからない、覚えていない。などの問題がある、とのことでした。
少し見せていただくと、目標設定の内容も、業績数値以外はかなり抽象的な目標になっており、具体的な成果指標となっている目標は少ない状況でした。未達成の要因はいくつかあると思いますが、ひとつは目標の数が問題ではないかと思います。

 

お仕事の中で、部門計画などの進捗管理のお手伝いをすることがあります。毎月の会議でその進捗確認と次月の行動計画を立てながら推進するのですが、その中で、「年間の目標設定内容は絞り込むこと」が非常に重要だと感じています。なぜなら、会議でじっくり話を聞いていると、1人の管理職の方が、1か月の中で意識されているのは、その方自身が今一番重要だと感じている目標に集中しているからです。
つまり、人はそんなに数多くの目標を常に意識できるものではないのだと感じています。
実際にいくつもの目標を同時に、確実に推進できる器用な方に出会うことも殆どありません。

 

例えば管理職の方ですと、中小企業において多くの場合はプレイングマネージャーとなります。この場合、実際に自身でプレイヤーをやりながら、数々の会議に出席し、問題解決、部下指導と日々仕事に追われます。その中で、中期的に解決すべき重要課題を目標に掲げ、推進しなければならない、という状況が発生します。この重要課題の内容は、部下に任せ切れず、自分自身が中心となって推進せざるを得ない、という難しい課題が多いものです。仮にこの目標を3つ抱えたとすればどうでしょうか?
(実際の経験上感じている感覚的な数字ですが、)恐らくそれなりの成果が出るのは1つです。
仮に経営者の方であって、経営のすべての課題に対する当事者意識が非常に高いレベルで維持されていたとしても、重要課題の推進を同時に複数行った場合、そのすべてに成果が出ることは少ないでしょう。まして人に任せれば、思うような成果が出るまでに時間もかかります。

 

その上、部下の目標管理、となると、やはり目標の数は絞り込んだ方がよいのではないでしょうか。もし複数の目標設定が必要な場合は「1期間1つの目標にする」ことです。例えば年間で3つの課題があるとすれば、始めの4か月で1つめ、次の4か月で2つめ、というように期間を区切った上で、1つの課題に集中して指導、推進される方が、より満足のいく成果につながるのではないかと思います。部下にとっても、達成感、成功体験が得られる上、勝ち癖をつけることができます。

 

「いや!そうは言うが、すぐに着手、推進すべきことがたくさんある!」という方、もちろんそれでも構いません。ただ、もし思うような成果が出ないとき、自身の課題、部下の課題について、一度絞り込んで設定していただくとよいかも知れません。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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