今、改めてキャリア自律について考える
第一回:「経験を積ませるだけ」ではキャリア自律は育たない

本ブログのポイント

・社員のキャリア自律を高める手段は様々あるが、本ブログでは転機経験に着目

・転機を通じ、社員のキャリア自律を最大限高めるためには、振り返りの機会を併せてデザインすることが肝要

・転機を提供する側の上司、人事担当者あるいは経営者に必要なのは、「社員各々の状況をしっかりと把握し、適切なタイミングで個々人に最適な転機を提供できる能力」

 

はじめに

終身雇用制の崩壊、平均寿命の延伸に伴う就労期間の長期化、AI技術の急速な発展―。こうした環境変化を背景に、社員が会社に依存せず、自らの意思でキャリアを切り開いていく「キャリア自律」の重要性が叫ばれています。

キャリア自律を高めることは社員個人のみならず組織にとっても様々なメリットがあり、実際多くの企業がキャリア研修やキャリアカウンセリングなどの施策を導入し、社員のキャリア自律を支援しようとしています。しかし、「具体的に何をすればキャリア自律を高められるのか」という問いに対して、明確な答えを持っている経営者、人事担当者、あるいは現場社員の方々は少ないのではないでしょうか。

本ブログでは、数回にわたってキャリア自律を多角的に考察します。第1回となる本稿では、「キャリア自律を高める要因」について整理したうえで、キャリア自律を高める一つのアプローチとして「転機-振り返りループ」の実践支援を提言したいと思います。

 

そもそもキャリア自律とは一体何か

まず、キャリア自律とはそもそも何なのか、改めて確認したいと思います。キャリア自律の概念自体は1990年代に米国で提唱されたものであり、新しい概念というわけではありません。しかしながら、先述のような外部環境の著しい変化に伴い、日本においても注目が集まっています。

キャリア自律とは、端的に言えば「自分のキャリアに責任を持ち、主体的に切り開こうとする心理や行動」を指します。学術的には、例えば堀内・岡田(2009)は、キャリア自律を「自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること」と定義しています。

また、キャリア自律の概念の背景には、Hall(1996)による「プロティアン・キャリア(変化自在なキャリア)」という理論があります。従来のキャリア観では、キャリアの主体は「組織」にあり、社内での昇進や地位向上が目標でした。一方、プロティアン・キャリアでは、キャリアの主体は「個人」にあり、個々人がキャリアを歩む過程で生じる欲求に応じてそのつど方向修正されると考えます。

 

キャリア自律を高める要因とは・・・職場要因/個人要因からの整理

では、具体的に何がキャリア自律を高めるのでしょうか。図1は、キャリア自律を高める要因を、職場・個人の2つの観点から整理したものです。

キャリア自律は、職場における経験や仕事の特性、周囲との関係性といった職場要因、個人の心理や性格特性といった個人要因など様々な要因に影響を受けます。したがって、職場要因・個人要因のいずれかを高めるアプローチが、キャリア自律の促進につながります。しかしながら、職場要因と比較し、性格特性などの個人要因は比較的変化させることが難しいと考えられます。この点を踏まえ、本ブログでは職場要因、とりわけ「転機経験」に焦点を当てて、具体的なアプローチを考えたいと思います。

 

キャリア自律を高める職場要因・個人要因

 

「転機-振り返りループ」を組織が支援する

仕事における転機とは、自己変革を迫られるような経験(これまでの仕事経験とは大きく異なる部門への異動、困難なプロジェクト、転職など)を指します。堀内・岡田(2016)によれば、転機が仕事経験からの学びを促し、結果としてキャリア自律を高めることが示されています。

すなわち、社員が転機を経て、仕事経験を振り返り、教訓を得る。そして、自身の価値観や強みを見つめ、再構築するプロセスがキャリア自律を高めると考えます。しかしながら、すべての社員が個々人で主体的に振り返りを行うとは限りません。この点を踏まえると、キャリア自律を最大限に高めるためには、組織が社員に対し転機を提供することに加え、意図的に振り返りの機会をデザインすることが肝要です。

 

組織における転機-振り返りループモデル

 
図2に示すとおり、社員は組織から提供された転機の中で壁にぶつかる、乗り越えるといった、様々な経験をします。次に、その中で得られた学びを振り返りによって内面化する中で、キャリア自律が高まります。

組織としては、まず異なる部門への異動や新たなプロジェクトへのアサインなど、本人にとって適度なストレッチとなる転機を提供し、その後定期的に振り返りの機会を設けます。具体的には、一定期間が経過した時点での「振り返り面談」の実施、上司やメンターによる定期的な1on1での「経験の言語化」支援、キャリアカウンセリングを通じた「経験からの学びの棚卸し」などが挙げられるでしょう。

大切なのは、転機-振り返りのループを組織側が意図的に提供することに加え、当事者である社員にもこのループの意義を説明し、明確に認識してもらうことです。これにより、このループを通じた学びの内面化、キャリア自律向上のさらなる加速化が期待できると考えます。併せて、社員の成長機会が途切れることのないよう、適切なタイミングで転機を絶えず提供することも重要でしょう。この点を踏まえると、転機を提供する側の上司、人事担当者あるいは経営者に必要なのは、「社員各々の状況をしっかりと把握し、適切なタイミングで個々人に最適な転機を提供できる能力」とも言えます。

 

おわりに

本稿では、キャリア自律を高める要因、特に「転機経験」を取り上げ、転機-振り返りループの重要性について整理しました。社員のキャリア自律を高めるためには、単に転機となる経験を与えるだけでなく、その経験を振り返り、学びを抽出していくプロセス全体を設計・支援することが重要です。

次回は、「キャリア自律がもたらすネガティブな影響とは?そしてそれをどのように回避するのか」について考察していきたいと思います。

 

引用文献

Hall, D. T. (1996). Protean careers of the 21st century. Academy of management perspectives, 10(4), 8-16.

Li, J., Han, X., Qi, J., & He, X. (2021). Managing one’s career: The joint effects of job autonomy, supervisor support, and calling. Journal of Career Development, 48(6), 973-986.

Sturges, J., Conway, N., & Liefooghe, A. (2010). Organizational support, individual attributes, and the practice of career self-management behavior. Group & Organization Management, 35(1), 108-141.

堀内泰利・岡田昌毅. (2009). キャリア自律が組織コミットメントに与える影響. 産業・組織心理学研究, 23(1), 15-28.

堀内泰利・岡田昌毅. (2016). キャリア自律を促進する要因の実証的研究. 産業・組織心理学研究, 29(2), 73-86.

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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