マネジメントが機能しない?中小企業の管理職の実態と4つの改善アプローチ
教育・能力開発
中小企業の管理職の多くは「プレイングマネージャー」として、現場の第一線に立ちつつ、マネジメントも担っています。その両立が求められる中で、次のような課題に直面している会社は少なくありません。
・管理職自身の業務が多忙すぎて、マネジメントに手が回らない
・管理職の役割が曖昧なままで、評価や期待が不明確
このような課題がなぜ生じるのか。そして、どのように改善すればよいのか。今回は中小企業の現実に即した視点から、プレイングマネージャーの実態と改善アプローチを解説します。
なぜ中小企業の管理職はプレイングマネージャーになるのか?
中小企業の管理職の多くがプレイングマネージャーになる背景には、以下のような構造的な事情があります。
人的リソースの限界
そもそもマネジメント専任者を置く余裕がないため、現場プレイヤーと管理職を兼ねる構造にならざるを得ません。
業務の属人化と依存
小規模な体制のために、特定個人への依存が進み、「この人がやらないと仕事が回らない」状況が常態化しやすくなります。
マネジメント文化・制度の未整備
管理職のロールモデルが不在であったり、昇格基準が「成果を出せるプレイヤー」であったりと、マネジメントを正当に評価・育成する土壌が整っていない企業も多くあります。
近すぎる人間関係
フラットな組織構造であることが多く、管理職と部下の距離が近いことで、部下のマネジメントを行うことを遠慮してしまいがちです。
このように、中小企業の管理職は自然とプレイングマネージャーになってしまう構造にあります。
プレイングマネージャーの役割とは?
プレイングマネージャーは、2つの視点で成果を求められます。
プレイヤーとしての役割
売上、製造量、現場の対応など、自らが手を動かして成果を上げることを求められます。
マネージャーとしての役割
部下の育成、チーム運営、業務改善など、組織としての成果を引き出すことを求められます。
しかし現実にはプレイヤーとしての業務に時間を奪われ、マネジメントが後回しになってしまっているケースが多く存在します。
改善のための4つのアプローチ
マネジメントが後回しになってしまっている現状を改善するために、以下の4つのアプローチが考えられます。
アプローチ1 プレイヤーの比重を減らす
中小企業では、そもそも人材不足のためにプレイヤーの役割を完全に減らすことは現実的に難しい場合が多くあります。「全てを任せる」のではなく、「少しでも任せられることを整理する」「将来的に任せられるように準備する」といった地道な工夫が重要です。
・小さなタスクから部下に任せる訓練の機会を設ける
・業務手順をマニュアル化し、他の人でも対応できる仕組みをつくる など
完全な業務委譲は難しくても、「任せられる部分の拡大」を積み重ねることが現実的なスタートになります。
アプローチ2 マネジメントの負荷を減らす
忙しさの背景には、アナログ業務や非効率な仕組みも影響しています。ただし、一気に全てをデジタル化するのはコストや運用の負荷もあり、現実的に難しい場合も多いのが実態です。まずは、負担の大きい部分から優先順位をつけて、段階的に改善していくことが有効です。
・業務報告や連絡事項を共有しやすい仕組み(グループウェア等)を導入する
・デジタル化が難しい部分は、業務の簡素化を検討する など
手間を減らせる工夫を積み重ねによって、マネジメントに充てられる時間を捻出することがカギとなります。
アプローチ3 意識改革を促す
プレイングマネージャーに求められるのは、「業務+αとしてのマネジメント」ではなく、「マネジメントを重視する姿勢」です。一方で、長年の慣習やプレイヤー意識が根強く残っているケースも多いため、以下のような取組みを通じて、時間をかけて意識改革を行っていくことが有効です。
・経営層が「マネジメントを評価する文化」を発信する
・研修を通じて、管理職のマネジメントに関するマインドを醸成する など
意識改革は一朝一夕には進みませんが、少しずつマネジメントに取り組む姿勢を育てていくことが、マネジメント意識の浸透につながります。
アプローチ4 将来の管理職候補を育てる意識を持つ
中小企業ではマネジメント適性のある人材がそもそもいないケースが多いため、常日頃から以下のような視点を持っておくことが重要です。
・研修や面談を通じて、継続的にマネジメントの魅力を伝える
・昇格や役割の基準に「マネジメント力」や「育成力」の要素を加える など
将来に向けた候補者の育成が、持続的なマネジメント体制の鍵になります。
最後に
中小企業においてマネジメントが機能しないことは、管理職個人の努力や力量の問題だけでなく、構造的な課題でもあります。一方で、理想論だけでは解決できず、変えられる部分から少しずつ変えていくことが、現実的なアプローチです。今からできる小さな改善を積み重ねていきましょう。
執筆者

宇井 賢
(人事戦略研究所 コンサルタント)
国内事業会社にて、知財(特許等)情報の調査・分析結果を基にした経営・事業戦略立案に関する業務を経験。その後、外資系大手コンサルティングファームにて組織・業務変革コンサルティングに従事したのち現職。また、中小企業診断士として中小企業に対する人事制度構築支援を含む幅広いテーマでのコンサルティング実績を持つ。
分析結果のみならず、会社・社員の想いも踏まえた本質的・実践的なコンサルティングを行うことを信条としている。
中小企業診断士。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。