制度やスキルだけで人は育たない! 人を育てる極意④

前回(https://jinji.jp/hrblog/13964/)に引き続き、今回も「(育てる側の)自分自身とどう向き合うのか?」の観点から、育てる極意の二つ目として、「自ら学び続ける姿勢の大切さ」について触れてみたいと思う。

 

居場所がなくなるかもしれないという不安と恐れ

そもそも人材育成は、本質的に、自分自身を失わせる行為だと私は思う。

 

「なぜ部下を育てようとしないのですか?」

 

「だって、部下が僕よりできるようになったら、自分の居場所がなくなるじゃないですか?」

 

実際に聞いた本当の話。

 

確かに気持ちは分かる。

人は誰しも自分の居場所を求めている。

誰かの役に立ちたい、自分がこの会社にいてもよい、価値ある存在でありたい。

 

誰かが自分より役立つようになれば、

自分がやっていることを他の人ができるようになれば、

自分の居場所がなくなってしまうかもしれない…

 

しかし、である。

社員ひとりひとりがそんな状態であれば、組織として成長することはないし、

組織として成長しなければ、組織はいずれ衰退し、
結局、自分の仕事がいつかなくなるかもしれない。

 

情けは人のためならず。

目先のことでなく、中期的な視点に立ちたいものである。

 

では、そのためには、すなわち、

自分の居場所がなくなるかもしれないという不安や恐れに打ち勝って、
中期的視点で人を育てるためには、どうすればよいか?

 

自らが学び続けるということ

一つは、前回(https://jinji.jp/hrblog/13964/)の記事で触れたように、人を育てる自分の動機に気づくことである。

すなわち、自分のどんな欲求を満たすのかを自覚することである。

 

そしてもう一つは、「自らが学び続ける」ということである。

 

自分が成長して、より高いレベルの仕事ができるようになる。

そうすれば、部下や後輩が成長しても、自分の居場所がなくなることはない。

いやむしろ、いないと困る存在になる。

人を育てるという貢献と、より高いレベルの仕事を通した貢献、二重の意味で、
あなたの存在価値は高くなるのだから。

 

そして、この「自ら学び続けること」のもう一つの意味がある。

それは、自戒を込めて言うならば、

 

「人は学ぼうとしない人からは学ばない」

 

私が30代のときの上司の姿を見て、反面教師として体験したことであり、

自らの教訓としたことである。

 

ある研究によると、上司が行う「探索的活動」(実験的試みを通して新しい知識を獲得しようとする活動)が高いほど、部下の学びを重視する「学習志向」が高まるそうである。

 

「上司が学ぼうとする態度が、部下の学びを誘発する」ともいえる。

 

 

つまり、

自分が学び続けるということは、

人を育てる不安や恐れに打ち勝つことであり、
人を育てることそれ自体に繋がる行為である。

そして、組織における自分の存在価値を高めることでもある。

逆に、人を育てるということは、前回の通り、

自らの成長欲求を満たし、

自分という人間を磨き、成長させる、絶好の機会となる。

 

人を育てるということは奥深いものである。

 

 

最後に、ウルグアイの元大統領で、その質素な暮らしから「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれたホセ・ムヒカ氏の言葉を。

 

「本当のリーダーとは多くの事を成し遂げる者ではなく、自分を遥かに超えるような人材を育てる人のこと」

 

そんな心意気で、人の成長支援に臨みたいものである。

 

次回は、「人の成長をどう捉えるのか?」について触れてみたいと思う。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

自社の経営に携わりながら、人材・組織開発、経営計画策定、経営相談など、幅広くクライアント業務に従事。中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、17年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら、バランス感覚を備えた、本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント/GCDF-Japanキャリアカウンセラー
iWAMプラクティショナートレーナー

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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