人を育てるジョブローテーション制度の作り方

「ジョブローテーションを実施しているが、思ったような成果が出ない」という悩みを抱える企業も少なくありません。

例えば、ジョブローテーションを実施した際に、異動後の業務とのミスマッチが生じたり、異動の目的が社員に十分に伝わらず、モチベーションの低下や離職者が発生するといったことが起こっています。

ジョブローテーションは、「組織の活性化」「業務ノウハウの標準化」「人材育成」「欠員補充」など様々な目的で実施されますが、適切な計画と運用がなされなければ、単なる「人の入れ替え」に終わってしまいます。では、どのようにすれば効果的なジョブローテーションを実現できるのでしょうか。

本記事では、主に「人材育成」を目的として計画的かつ効果的なジョブローテーションを行うためのポイントを解説します。

 

1.育成すべき人材像を明確にする

まず、ジョブローテーションを通じて育成したい人材像を明確にします。人材のタイプは基本的に以下の二つに大別されます。

 

①管理職(マネジメント層)

管理職は組織の方向性を決定し、成果を最大化する役割を担います。求められるスキルは多岐にわたりますが、具体的な人材像として以下のような例が考えられます。

 

事業部門責任者

幅広い視野を持ち、適切な意思決定を行う

 

営業部門責任者

各エリアの営業チームを率いて売上拡大を推進する

 

製造部門統括責任者

国内外の複数工場を管理し、生産効率の向上と品質維持を遂行する

 

管理職は単なる業務遂行者ではなく、組織の未来を創るリーダーであるため、ジョブローテーションを通じて多様な経験を積ませることが重要です。

 

②専門職(スペシャリスト)

専門職は特定の分野において高度な専門知識やスキルを有し、企業の競争力の強化に貢献します。具体的な人材像として、以下のような例が考えられます。

 

製品開発スペシャリスト

新製品の設計・開発を担当し、技術革新を推進する

 

技術営業スペシャリスト

技術的な知識を持ち、顧客に最適なソリューションを提案する

 

品質管理スペシャリスト

品質保証の専門家として、製品の品質基準を策定やISOや法規制への対応を遂行する

 

専門職は高度な業務遂行者として会社をけん引する存在であるため、主に関連する分野内でのジョブローテーションを通じてスキルを深化させ、応用力・課題解決力を高めることが重要です。

 

2.効果的な育成プロセスを設計する

育成すべき人材像が決まったら、以下の方法を組み合わせ必要な業務経験を整理します。

 

社内の実在者のキャリアを分析する

社内のモデル人材のキャリアを振り返り、共通する経験を抽出する。例えば、現経営幹部人材が経験してきた部署やプロジェクトを分析し、どのようなスキルや知識が必要だったかを整理する

 

求めるスキルから逆算する

スキルマップ等を活用し、スキルを習得するためにどのような業務経験が必要かを整理する

 

3.組織の状況に応じた対象者の選定を行う

次に、具体的な要員計画を立て、対象者を選定します。

 

① 管理職候補

基本的にバイネームで配置する

例:営業部長(5年後に定年退職)→ 次長を後任に

  • 候補者をプールし、計画的に選抜していくことが理想的ではあるが、人材が潤沢でない中小企業においては現実的でない

 

② 専門職候補

ポストの柔軟性が高いため、育成状況や業務適性を踏まえて機動的に計画を見直しながら適切に配置する

 

上記をベースとしつつ、離職者が発生した場合等においては、柔軟に計画変更をする必要があります。

 

4.社員の納得感を高める

ジョブローテーションを成功させるためには、社員の納得感を高めることが不可欠です。以下の施策を組み合わせることで、社員のモチベーションを維持しながら円滑に運用します。

 

ジョブローテーションの目的を共有する

社員説明会等を通じて、会社として計画的なジョブローテーションを行う目的を明確に伝える

 

社員の希望を尊重する

自己申告制度を活用して社員のキャリア志向を把握し、適正を踏まえつつ可能な限り希望を考慮した計画を立てることで、モチベーションの低下を防ぐ

 

対象者に対して丁寧な説明を行う

当該社員への期待事項、異動先での経験期間、異動後のキャリアパスを事前に説明することで、不安を解消させる

 

評価・処遇の透明性を確保する

異動による昇給・昇進・昇格への影響を明確にし、「ジョブローテーション=キャリアアップ」であることを社内に定着させる

 

異動後のフォローアップを強化する

異動後の定期的なフィードバックやメンター制度を導入し、新しい環境での適応をサポートする

 

成功事例を共有する

過去の異動者がどのように成長したかを紹介することで、社員の不安を和らげ、前向きな気持ちで異動できるようにする

 

これらの工夫を組み合わせることで、ジョブローテーション制度が企業・社員双方にとって意義のあるものになると考えられます。

 

5.まとめ

計画的なジョブローテーションは、将来のリーダーや専門職の育成に不可欠です。そのためには、

 

・育成すべき人材像を明確にする

・効果的な育成プロセスを設計する

・組織の状況に応じた対象者の選定を行う

・社員の納得感を高める工夫をする

 

これらを意識し、企業と社員双方にとって意義のあるジョブローテーションを実施しましょう。

執筆者

宇井 賢 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

国内事業会社にて、知財(特許等)情報の調査・分析結果を基にした経営・事業戦略立案に関する業務を経験。その後、外資系大手コンサルティングファームにてDX(デジタルトランスフォーメーション)を軸にした組織・業務変革コンサルティングに従事したのち現職。また、中小企業診断士として中小企業に対する幅広いテーマでのコンサルティング実績を持つ。
分析結果のみならず、会社・社員の想いも踏まえた本質的・実践的なコンサルティングを行うことを信条としている。
中小企業診断士。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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