1からはじめる 中小企業の「HRテック入門」
HRテック
HRテックとは簡単に言えば、「人事業務をIT化する技術・サービス」全般を指します。「タレントマネジメントシステム」と称されることもあります。
1:HRテック市場の動向
HRテックの市場は近年急速に成長しており、ミック経済研究所の最新の調査によれば、「HRTechクラウド市場は2023~2027年度まで年平均31.8%で成長を続け、2027年度には3,200億円市場になると予測」とあります(https://mic-r.co.jp/mr/03030/)。
市場の成長に裏付けされるように、中小企業においてもHRテック(Human Resources Technology)の導入が確実に進んでいます。ここ5年くらいの印象ですが、人事制度の構築・運用のテーマで中小企業を訪問させていただく際、「人事制度を新たに構築するにあたり、HRテックのシステム導入も同時に考えたい」「現在導入している人事制度の運用をHRテックで効率化・高度化したい」といったご相談を受けるケースが増えてきています。
HRテックをサービスとして提供する会社も急激に増加しています。例えば労務管理の分野では、昔から勤怠管理システムといった形で機能特化してサービスを提供している著名な会社が幾つか存在していますが、ここ最近ではHRの様々な機能を有した(人材採用から配置・定着、評価・処遇、人材育成に至るまで)システムをリリースする会社も多く出てきました。
1からHRテックのシステム導入を考える中小企業にとっては、サービス提供会社が増えることは選択肢の増加に繋がりますし、競争によるサービス・品質の向上も期待できるところですので、良いことも多々あります。反面、選択肢が多すぎることと、似たようなサービスも増えていることから、「どれを選んでいいか分からない」といったお悩みもよく聞かれます。そのような状態ですので、あるHRテックを導入してみたが、
・システムがオーバースペックで、大半の機能は使われていない状態
・逆にシステムのスペックが不足していて、自社でやりたいことができない
といった失敗例も少なくありません。
市場はサービス提供会社による広告合戦の様相を呈していますので、流行りものを取り入れる感覚で、社内方針も十分に固まっていない段階で導入した企業では、そうしたことが起きやすいと言えます。
もっとも、良いサービスがたくさんあることも事実ですから、うまく取り入れることができれば、自社の人事機能の効率化・高度化を図ることが可能になることは間違いありません。そもそも人事機能が無いという中小企業であっても、HRテックがあることで人事機能をもてる、という効果も期待できます。ただ、どうかここで一呼吸置いていただき、改めて「何のためにHRテックを導入するのか」という本質論に立ち返り、十分に社内検討を進めた上で導入を考えていただきたいと思います。
2:中小企業がHRテック導入を検討する際の留意点
例えば、「人事評価に手間がかかっており、システムで効率化したい」というのが主目的であり、それ以外の人事機能ではそれほどシステム化のニーズは無かった、といった話がよくあります。それであれば、全般的な人事機能を有しているHRテックを導入するよりは、人事評価の機能に特化して様々な企業ニーズに対応できるHRテックを導入する方が合目的的かつ、結果的にコストも安く抑えられるため最適と言えます。企業側にはこうした視点でHRテックを選択していくことが望まれます。
また、一度システムを導入すればそれでよい、ということにもなりません。HRテックを活用して組織運営をどのような状態にまで発展させていきたいのか、中長期視点でのゴールを見据えておくことも必要です。それにより、活用すべきHRテックの内容も企業の成長とともに変わっていくでしょうし、サービス提供会社への要望を定期的に出していくことで、サービス・品質の更なる向上も期待できます。環境変化に合わせて社内の人事機能、また活用するシステムのアップデートをしていく視点が欠かせません。そうなると、社内でHRテック活用の専任担当者を育成していく必要はないか?といったことなども同時に考えていくとよいでしょう。
中小企業においてもHRテック導入・活用による成功事例が出てきています。重要な関心事になっている経営者・人事担当者の方も多いと思いますが、勢いで導入するのではなく、ご紹介したような観点・注意点を参考にしていただきながら、幅広く情報収集をするところから始めてみられてはいかがでしょうか。
※ 2024年11月19日に、本ブログと同一タイトルのオンラインセミナーを開催します。
詳細は下記リンクをご覧ください。
執筆者
森中 謙介
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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