部長の後継人材を準備できていますか?

「向こう3~5年の間に、部長が一気に定年退職を迎える」といった具合に、幹部社員の高齢化が人事課題になっている中小企業は増えています。課題解決策としては、現幹部社員に60歳以降も活躍してもらう方向で定年延長や再雇用制度の見直しを検討するケースが多いです。しかし、こういった課題解決策は本来、課題解決の本筋ではありません。理想を言えば、次の世代にバトンを繋ぐことがあるべき姿です。

 

◆次の世代にバトンを上手く繋ぐには?

後継人材の育成を先手先手で進めるためには、以下のようなアプローチが肝要です。
 
 ① 3年、5年といったスパンで、空きポストが発生する数を把握する
 ② 空きポストを担える見込みがある候補者を選定する
 ③ さらに、次々世代の幹部社員候補を選定する
 ④ 上記を可視化した上で、育成課題や採用課題を設定。課題解決を計画的に行う
 ⑤ ④の推進状況を定期的にチェックし、適宜修正を行う

 

しかし、①~⑤を上手く実行できているケースはあまり見かけません。実際には、具体的な施策を講じたくとも、①~③が不十分で適切な課題設定ができない企業が多いのではないでしょうか。

 

◆後継人材の準備状況を可視化する方法

人的資本開示の国際規格であるISO30414の中では、後継者候補準備率(Successor Coverage Rate)という指標で後継人材の準備状況を可視化する方法が定義されています。具体的なイメージは、以下のような形です。
 

後継者候補準備率 

上表では、10席ある重要ポストに対して、後継者候補は2名しか準備できていないことを表しています。概念的には理解できるものの、どうやって自社で活用すればよいかが分からない、そういった感想を持たれた方もいらっしゃると思います。ですので、冒頭に紹介した課題感を題材に、実践的な活用方法をご紹介します。

 

<重要ポストの数>

重要ポストは、人材を計画的に育成することが必要なポストを指します。多くの中小企業では管理職・幹部社員が該当するでしょう。冒頭の事例にあてはめると、後継者育成が必要なポストは空きポストになる部長職と置くことができます。

 

<後継者候補としてプールにいる者>

後継人材の準備状況を見える化するという観点に立つと、部長の後継として重点的に教育していく人材と解釈するのが妥当です。部長の後継といえば、次長・課長をイメージしますが、全員が後継候補になるとは限りません。したがって、「後継人材として教育対象であるか」という定性的な視点でフィルタリングしていきましょう。上手く選定できないという場合は、以下のような観点でフィルターをかけるとよいでしょう。

 

【フィルタリングの観点】年齢/パフォーマンス(人事評価結果)/本人の志向 など

なお、同じ教育対象者でも、A:次世代に向けた候補者B:次々世代に向けた候補者の2つに区別できます。AとBの間で課題や取り組むべき施策が異なることがあるため、両者を区別して管理することをおすすめします。

 

上記の内容を踏まえると、下表のようなイメージで後継人材の準備状況を見える化できます。先ほど取り上げたISO30414の指標より、具体的な活用イメージが持ちやすくなったと思います。

 

後継人材の準備状況

現状が見える化されることで、ポストの継承をスムーズに行うための課題が設定しやすくなります。例えば、上表にあてはめて考えると、
 

 ① 次世代の部長候補である2名の人物像(業務経験、スキル面の特性 等)を考慮して、どのような育成施策を講じていくか。

 ② そもそも候補者の頭数が足りていない状態。どのような方向で補っていくか。(部長候補者を中途採用で補強する。次々世代の部長候補を抜擢できるように育成スピードを上げていく など)

 
といった具合です。課題設定ができることで解決策もイメージしやすくなるだけでなく、取り組みのスピード感も持てます。

 
今回は、後継人材を計画的に準備ためのキーとなる準備状況の見える化手法をお話しました。危機意識は持ちつつもなかなか動き出せていない企業も多いと思います。そういった企業は、今回の方法を参考に現状を把握するところから始めてみてください。

 

 

執筆者

岸本 耕平 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

「理想をカタチにするコンサルティング」をモットーに、中堅・中小企業の人事評価・賃金制度構築に従事している。見えない人事課題を定量的な分析手法により炙り出す論理的・理論的な制度設計手法に定評がある。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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