2023年 中堅・中小企業の賃上げアンケートの調査結果
2023.02.22
レポート
~6割の企業が例年よりも高い賃上げを実施・検討。社員数50名未満規模の企業で低い傾向~
全国の中堅中小企業を中心に人事コンサルティングサービスを提供する株式会社新経営サービス 人事戦略研究所は、賃上げ動向の実態把握のため、2023年賃上げに関する緊急のアンケート調査を実施しました。
調査は、自社WEBサイトの利用者・メールマガジン購読者である経営者・人事担当者を中心に行い、134社からの回答を得て、結果を集計しました。
【結果の概要】
①例年よりも高い賃上げを実施する企業は、検討中の企業を含め60%、一方例年よりも高い賃上げを実施しない企業の割合は、24%となった。規模別(正社員数)集計では、社員50名未満の企業で例年よりも高い賃上げを実施しない企業の割合が35%と最も高くなった。
②賃上げをする理由では、複数回答で「物価高による社員の生活不安解消のため」が最も多く、続いて「世間的な賃上げ動向に合わせるため」「採用難により、募集賃金や初任給の引上げをする必要があるため」となった。
③例年よりも上乗せする部分の賃上げ率では、「2%以上3%未満」と回答した企業が28%と最も多く、続いて「3%以上5%未満」が22%、「1%以上2%未満」が17%となった。
④賃上げの対象となる社員について聞いたところ、世代別では30歳代、40歳代、20歳代の順で多くなっており、50代は少ない傾向がみられる。一律に賃上げする企業がある一方、世代別に賃上げの水準に差異をつける予定の企業が一定数あった。
調査期間 | 2023年1月31日~2023年2月10日 |
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調査方法 | 新経営サービス顧客・メルマガ読者を対象にインターネットによるアンケートを実施 |
有効回答数 | 134社 |
【社員数区分(正社員)】
社員数 | 50名未満 | 50名以上 100名未満 |
100名以上 300名未満 |
300名以上 | 合計 |
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回答社数 | 38社 | 31社 | 37社 | 28社 | 134社 |
【業種区分】
業種区分 | 製造業 | 卸売業・商社 | 建設業・ 不動産業 |
小売業・ サービス業 |
その他 | 合計 |
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回答社数 | 47社 | 16社 | 15社 | 27社 | 29社 | 134社 |
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 担当 川北智奈美(かわきた ちなみ)
Tel: 080-3607-1331 E-mail: kawakita@skg.co.jp
もしくは、株式会社新経営サービス 人事戦略研究所
Tel: 075-343-0770 Fax: 075-343-4714 までお願い致します。
~検討中の企業も含め、6割の企業が例年よりも高い賃上げを実施の方向~
今年(2023年)の給与改定において、例年よりも高い賃上げを実施済み又は実施を決めている企業が19%、例年よりも高い賃上げに向けて検討中の企業が41%と、全体の6割を占めている。一方で例年通りの賃上げのみを行うと回答した企業が19%、例年よりも低い水準で賃上げを行うと回答した企業は3%となっている。(図表1)
~例年よりも高い賃上げに踏み切る理由は「物価高による社員の生活不安解消のため」が1位~
例年よりも高い賃上げに踏み切る理由を聞いたところ、「物価高による社員の生活不安解消のため」が69社で最多となっており、「続いて世間的な賃上げ動向に合わせるため」が47社、「採用難により、募集賃金や初任給引上げの必要性があるため」が42社となっている。物価高に対する対応だけでなく、採用市場の厳しい動向を踏まえて初任給等の引上げの選択を迫られていることが窺える。(図表2)
~賃上げの方法は基本給部分の底上げをする企業が多い~
例年よりも高い賃上げを実施する方法について聞いたところ、「基本給に一定額を上乗せする」が最も多く、続いて「基本給の昇給率を引き上げる」となっており、基本給部分で底上げをする方向で検討している企業が多い。一方で、物価手当等の諸手当で対応すると回答した企業が12社、一時金支給や賞与への上乗せで対応する企業が一定数ある。諸手当で対応すると回答した企業の中には、現在賃金制度(賃金テーブル)の抜本的見直しを検討しているが、4月の給与改定に間に合わないため、それまでの一時的措置として手当で対応するとの回答が見られた。(図表3)
~上乗せする部分の賃上げ率は、2~5%程度が5割~
例年よりも上乗せする部分の賃上げ率について聞いたところ、2%以上3%未満と回答した企業が28%と最多。続いて3%以上5%未満と回答した企業が22%となっている。例年通りの昇給に加え、2%~5%程度をさらに上乗せする傾向があることが窺える。一方でまだわからないと答えた企業が2割を占めており、賃上げ額の決定に時間を要している企業が一定数あると推察される。(図表4)
~賃上げの対象となる社員は、世代別には30歳~40歳代が多い傾向~
正社員のうち、賃上げ対象となるのは、年齢層では30歳代~40歳代が中心。管理職を対象とする企業(16社)は、非管理職を対象とする企業(19社)よりも少ないことがわかる。(10代は在籍者がいない企業があるため参考値。また正社員全員を対象とした企業の回答も一定数含まれている。)(図表5)
~賃上げの方法では、「定額」、「定率」、「等級や評価結果による」等、各社方針が異なる~
賃上げの具体的な方法では、基本給のベースアップ等による一律で行う企業もある中、等級別に差異を設け、若年層の底上げを厚めに行うことを検討している企業もある。その他、評価による昇給差をつけるなどの回答も一定数あった。(賃上げ方法について具体的な回答があった内容を要約している)
【一律の昇給を想定されている企業】
- 全ての社員に対して、一律で賃上げを実施する
- 全社員同率の賃上げを検討中
- 基本給のベースアップを定額で5,000円程度引き上げる予定
- 基本給の3~4%の一律賃上げ+人事評価結果を加味して決定する
- 全体的にベース部分を引き上げる
- 今回は従業員全員に、一律の上乗せ支給を検討している
- 全社員一定額UPを検討中
- 物価対策の意味で全員を昇給予定(物価手当として支給予定)
- 自社に必要な人材の確保に向け、全社員一律10%の賃上げを予定している
【若年層の賃上げを厚めに検討されている企業】
- 職能給制度をベースに、下位等級者ほどベースアップ率を高くして若年者の底上げを行う
- 50歳ぐらいまでの賃上げ率を高く設定し、50~60歳は抑え気味で検討中
- 20ー30代の給与を底上げし、役職定年の導入により50代は下落する見込み
- 若年者の昇給率をベテラン社員よりも高く設定。給与と賞与の年収ベースで平均5%~6%程度を見込んでいる。
- 初任給を大幅に引き上げる決定をしたため、それよりも基本給より低い給与の社員は一律で昇給予定
- 等級別ベースアップ額を決定する。下位等級は高めに設定予定
- 若年層や中途採用者で賃金水準が低い社員を対象にベースアップ予定
- 下位~中位グレートまでは上げることを検討中。上位グレードについては実施しない可能性がある
- 非管理職の各等級の能力給単価と号棒間のピッチ単価を引き上げた
【上記以外で、階層、雇用区分、その他勤務条件により賃上げ率に差異がある企業】
- 一般社員により管理職の賃上げ率を高く設定する
- パート社員は比較的賃金が低いため、正社員よりも昇給率でいうと高水準で改定予定
- 地域別に昇給率差をつける予定
【賃上げ率に評価を加味して決定される企業】
- 業績評価を重視して賃上げ率を検討予定
- 営業や管理職の一部は、業績比例にて検討中
- 評価により昇給率を変える
- 評価に応じて昇給率を個々に判断予定
- 評価結果に応じて昇給比率を変更する方向で検討している
【その他】
- 賞与支給率(原資総額)を引き上げる予定
- 今年に限り、物価手当として期限付きで支給する予定。来年は昇給と共に変更する予定
- 一律、または扶養家族数に応じてメリハリをつけるか検討中
- 賃金以外にも、休日増による実質賃金単価も上げる方向で検討中
~「収益構造上、現状の賃金水準以上にできない」が最多~
例年よりも高い賃上げを予定していない企業について、その理由を尋ねたところ、「今の収益構造上では現状の賃金水準以上にすることはできない」と回答した企業が20社となっている。これは例年よりも高い賃上げをしない、と回答した企業の6割を占めている。
賃上げ動向に応じて世間並やそれ以上の対応ができる企業がある一方で、業績の如何に関わらず、これ以上の賃上げができない収益構造となっている企業が一定数あることがわかる。また、「仕入やその他の経費のコスト高により収益が悪化している」「業績が思わしくない」など、厳しい経営状況に置かれている企業もあり、賃上げの動きは二極化しそうである。(図表6)
~例年よりも高い賃上げを行う企業の割合は、50名未満の規模で最も低い~
例年よりも「高い賃上げを実施済み又は実施を決めている」、「実施に向けて検討中」と答えた企業の割合は300名以上規模の企業では57%、100名以上300名規模の企業で最も多く70%、50名以上100名未満の企業で60%、50名未満の企業では52%となっている。但し300名以上規模の企業では、「まだわからない」と回答した企業が2割程度あり、検討に時間を要していることが窺える。
また50名未満の企業では、「例年通りの賃上げを行う」「例年よりも低い水準で賃上げを行う」「賃上げをお行わない」と回答した企業が、35%と3割を超えている。企業規模計における22%と比較しても13ポイントの差があり、賃上げに対応できない企業が最も多くなっている。(図表7)
~小規模企業では、大幅な賃上げに踏み切るケースも~
上乗せする賃上げ率では、3%未満と回答したグループと、3%以上と回答したグループで分けて見ると特徴的である。3%未満では、100名以上300名未満の企業が56%、50名以上100名未満の企業が50%、50名未満では38%と企業規模が小さくなるほど低くなっている。一方で3%以上と回答したグループでは、100名以上300名未満の企業が36%、50名以上100名未満の企業が40%、50名未満では43%と企業規模が小さくなるほど高くなっている。小規模企業では、元となる賃金が統計的に低い傾向があるので一概にいえないが、収益力のある企業においては、採用力強化や社員の定着に向けた積極的な賃上げに踏み切るケースがあるものと推測される。(図表8)
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