残業減でも給与増「生産性連動賞与」とは
2017.04.24
レポート
残業が減ったのはいいけど……
働き方改革の目玉として、長時間労働の是正が進められています。
具体的には、
●原則的な残業上限は、月45時間、年360時間
●特別な事情がある場合に労使協定を結べば、
(1)年720時間(月平均60時間)以内
(2)単月では最大100時間未満
(3)2カ月から6カ月の月平均80時間以内
(4)月45時間を超えられるのは年6カ月以内
として、これらを罰則付きで法制化する見通しです。立場によって賛否はあるでしょうが、多くの企業は対応をせまられることになります。
そこで、法改定に応じて労働時間の短縮が進むとして、より現実的な問題を考えてみましょう。
企業にとっては「労働時間が減少した分、業績が下がるのは困る」、社員にとっては「残業代がなくなって、収入が減るのは困る」という問題です。
たとえば、あるメーカーの製造部門が、残業により生産対応していたとします。当然、残業時間を減らせば、生産量が減りますので、その分の売上が減少します。残業代が減る分、人件費コストは下がりますが、それ以上に業績が落ち込めば、企業は、賞与など残業代以外の人件費も抑えようとするでしょう。
すると、社員にとっては、残業代以上に年収が下がる結果となります。
また、小売業や外食産業の場合、パート・アルバイトを増やして対応したいところですが、人手不足でなかなか集まりません。そのため、もともとスタッフが10人必要な時間帯を、8人で回すことになるかもしれません。チャンスロスやクレームによる販売減にならなければいいのですが、収益への影響は避けられないでしょう。あるいは、営業時間を減らせば、残業時間の削減はできますが、その営業時間分は確実に売上が減少してしまいます。すると、先ほどのメーカーと同じように、社員の収入減につながります。
これでは、社員にとって、労働時間を減らそうとする意欲を削いでしまう。
この問題の解決策としては、残業が減ることで、会社も個人も得になるようにすることです。
生産性連動賞与のススメ
IT企業大手のSCSKが、残業代が減った分は賞与で還元するしくみを導入して、話題になりました。紳士服大手のはるやまホールディングスは、月の残業時間がゼロの社員に1万5000円のNo残業手当を支給する方針を発表しました。
これらの施策により、社員にとっての残業削減に対する意欲は増すでしょう。しかし、企業にとっては、ちょっと心配です。労働時間と比例して、利益も減っては困るからです。
そこで、「生産性連動賞与」あるいは「業績連動型・残業代還元賞与」を提案したい、と思います。
たとえば、「労働時間を削減して残業代が減った分は、利益が維持できている限り、全額を賞与に上乗せします」といった制度です。会社にとっては、残業が減っても、仕事の生産性が上がって業績が維持できれば、問題ありません。社員の定着や採用にも好影響を及ぼすでしょう。ベースの月給を引き上げる方法もありますが、その後に残業が反転して増えるようなことがあれば、給与総額が高騰してしまいます。そのため、賞与で還元するのです。
ただし、どのように分配するかは、慎重に考えなければなりません。各人の残業代減少分をそのまま分配したのでは、もともと残業時間が多かった人の方が得することになります。一方、一律に分配したのでは、今度は残業削減しなかった人が得をすることになるからです。
<生産性連動賞与例>
1.前期並みの利益(たとえば営業利益1億円)確保を前提として、時短により減少した残業手当総額(たとえば年間1000万円)を全額社員に賞与として還元する。利益が減少した場合でも、一定範囲内であれば、役員会により還元額を検討する。
2.社員への配分方法は、各人ポイント×単価(総額÷全社員のポイント総計)
3.各人ポイントは、以下(1)~(4)の合計
ポイント(1):月平均の個人残業代減少額により、1万円=1P(増加者は0P)
ポイント(2):今期の個人平均残業時間により、20H以下3P 30H以下2P 40H以下1P
ポイント(3):個人ごとの生産性評価により、A評価2P B評価1P C評価0P
ポイント(4):所属部署ごとの生産性評価により、A評価2P B評価1P C評価0P
<(4)についてのみ、管理職にも×2倍のポイントを付与>
これは、生産性連動賞与の例です。社員ごとの時短や生産性評価をポイント化し、還元総額を各人のポイントに応じて分配するルールとなっています。
生産性評価については、部署ごとに指標や評価基準を設定することになります。ポイント(4)の部署ごとの生産性評価に限定して、管理職もポイント付与の対象としました。残業代減少の還元という意味では、管理職は対象外となるはずですが、チームの時短や生産性改善に対する意識づけのため、分配対象に加えています。
SCSKは成功「労働時間が減って業績改善」
もちろん、これだけで問題がすべて解消するわけではありません。
そもそも、それまでの利益水準や賃金水準が妥当であったのか、という議論も必要でしょう。あるいは、初年度はいいとして、2年目以降の還元ルールも考えないといけません。
また、ホワイトカラー職種はともかく、先述したような製造部門や小売業・外食産業において、本当に生産性向上で乗り切れるのか。業種によっては、為替相場や需要動向など、社員の努力だけでは如何ともし難い収益要因もあるからです。
SCSKは、労働時間が減って、業績も改善している成功事例です。長時間労働の是正自体は善に違いありませんが、その結果、企業収益や個人の賃金にどのような影響を及ぼすのか。正直、多くの会社がSCSKのようになれるかどうかは、予測がつきません。
PRESIDENT ON LINE 2017.4.13掲載分