採用のために社員満足度を高める

先日の新聞にて発表がありましたが、2014年6月の求人倍率が1.10倍となり、バブル崩壊以降の最高値を記録しました。リーマンショック後に記録した最低値が2009年8月の0.42倍ですから、約5年で倍以上の数値になっています。
 
今春、大手飲食チェーンが人手不足を理由に店舗を閉鎖しているというニュースが話題になりました。東京商工リサーチの2014年1月から4月のリポートでは「人手不足を理由に倒産する企業が発生し始め、今後増加が懸念される」と衝撃の事実が記載されています。
 
わが国では、少子高齢化で総人口の減少が進んでいますが、15~64歳の生産年齢人口の減少率は総人口よりもさらに深刻です。総務省によれば、2013年10月時点で前年よりも116万5千人減少し、7901万人と、32年ぶりに8000万人を割り込んでいます。そして、この傾向は今後もずっと続いていきます。
 
新聞などでは、景気回復によって人手不足を招いていると指摘していますが、思うように採用できない理由を「景気が良くなったから人手不足になっている。また景気が後退すれば採用できる」と思っていると完全に時代を見誤ることになります。
 
人手不足による店舗の閉鎖や倒産に陥っている企業がある一方で、社員を大切にする企業においては人手不足で悩んでいる会社は殆どありません。なぜなら、時には予定通りに採用できないこともありますが、定着率が高く離職者が殆どいないからです。
 
リーマンショック前などの採用が難しい時期においては、募集時の給与を高く設定したり、求人広告などの募集にかけるコストを増やしたり、あるいは採用のプロセスにおいて応募者の志望動機を高めるように様々な工夫を凝らしたりする企業が多く見受けられました。しかし今後は、採用にかけるマンパワーやコストを増やすだけでなく、今いる社員に離職されない職場を作ることにも注力することが非常に重要です。
 
なお、定着率を高めるために、給与や賞与等を引き上げる企業もありますが、それらは一時しのぎにしかなりません。また、仮にそれに釣られて残る社員がいたとしても、すぐに昇給した金額に慣れ、離職することになるでしょう。その結果、人件費が増加し利益を圧迫しては何の意味もありません。
 
社員の定着率を高めるとともに入社希望者を増やすためには、一見地味ではありますが、社員の職場に対する満足感を高めることに経営陣が注力することが一番の近道です。その結果、鬱などによる休職者や退職者が減って定着率が向上するとともに、社風や社員のいきいきと働いている姿に惹かれて、自社にマッチする人材の応募も増えることになります。
 
それでは、社員の満足感とは何でしょうか。人の欲求や心のニーズについては諸説ありますが、企業において特に重要なのは、1.安心・安定の欲求、2.愛と所属の欲求、そして3.承認の欲求です。これらを高いレベルで満たすことができればできるほど、社員の職場に対する満足感が高まります。
 
一例を挙げると、企業の理念や経営方針が明確で何を目指しているかが分かっている。業績についても開示されている。会社が社員の雇用をしっかりと守ろうとしている。いざという時にはフォローが受けられる。必要な時にはしっかりと休みが取れるようになっている。仕事上のトラブルや悩みに対して、上司や同僚から適切なサポートが受けられる。目立たない仕事であっても、他の社員が興味・関心を持ってくれている、等々。
 
このような時、社員は先の3つの欲求が満たされます。そしてさらに、自身の成長や他者への貢献という新たな欲求が芽生えてきます。その結果、よりモチベーション高く仕事に取り組み、今まで以上の成果が上がるようになります。
 
採用難の時代を迎えるこの時期を好機と捉え、まずは社員の満足感調査から始めてみてはいかがでしょうか。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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