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確定拠出年金を福利厚生として活用する方法

2016年5月24日、衆議院で改正確定拠出年金法が成立しました。

確定拠出年金は、月々の掛金を、あらかじめ設定された投資商品(貯金や投資信託)の中から、社員本人の判断で資産運用する年金制度です。今回、主婦や公務員も加入できるようになった点が、ニュースの中心となっています。

確定拠出年金、主婦・公務員も対象 改正法が成立

運用成績によって受取額が変わる年金の加入対象を広げる改正確定拠出年金法が24日の衆院本会議で可決、成立した。これまでは自営業者や一部の会社員に限っていたが、主婦や公務員が対象に加わり、実質的に全ての現役世代が確定拠出年金を使えるようになる。中小企業向けに設立手続きをやさしくした簡易型の制度も新設する。

確定拠出年金は、国が運営する国民年金や厚生年金の上乗せ部分となる企業年金の一種だ。掛け金の運用先を自分で選び、その運用成績次第で将来受け取る年金額も変わる。掛け金が所得控除の対象になるなど税制上のメリットが大きい。制度の広がりによって株式投資の拡大を期待する見方もある。

確定拠出年金には個人が自ら加入する個人型と会社単位で加入する企業型がある。改正法の成立により2017年1月から専業主婦や公務員、企業年金に加入している会社員の計2600万人超が個人型の確定拠出年金を利用できるようになる。掛け金の上限額は専業主婦で年27万6千円、公務員は14万4千円だ。

改正法のもう一つの特徴は確定拠出年金の持ち運びをしやすくした点だ。これまでは確定給付型年金なら転職時に移管できたが、確定拠出年金の場合は新しい職場の企業年金が確定給付型だと持ち運べなかった。

(日本経済新聞電子版 2016/5/24より)

ところが、主婦が加入できるといっても、もともと年収100万円以下であれば、所得税や住民税が発生しておらず、加入時点での税制軽減のメリットはありません。運用益への課税が免除されるとはいえ、既にスタートしているNISA(少額投資非課税制度)でも同じような効果が得られます。ご主人の所得から控除できるくらいにならないと、あまり広がらないのではないでしょうか。また、公務員にとってのメリットは大きいですが、この点は民間企業の人事担当者にとっては、関係ありません。

民間企業やサラリーマンにとっては、今回の法改正は、中小企業向けの簡易制度の創設や、転職時の移管ルール変更くらいが、改善点ということになるでしょうか。

しかしながら、本来「確定拠出年金制度」自体は、企業にとっても社員にとっても、大きなメリットのある仕組みです。また、公的年金受給年齢は後退していく一方であり、社員の老後に備えた配慮を行うことは、企業にとっても重要な政策といえます。

そこで今回は、企業の追加コストを最小限に抑えつつ、社員の福利厚生として活用する方法を提案してみたいと思います。具体的には、「①個人の選択による掛金の拡大」「②投資運用商品の多様化」という2点についてご提案します。

1.個人の選択による掛金の拡大

会社からの掛金負担をそのままに、個人の意思で掛金を増額する方法としては、「マッチング拠出制度」と「選択制確定拠出年金」の二つがあります。

そもそも、企業型確定拠出年金のみ採用(もしくは退職一時金か中小企業退職共済を併用)している場合は月額5万5000円まで、企業年金(確定給付年金もしくは厚生年金基金)を併用している場合は月額2万7500円まで、掛金の上限が認められています。

しかし、実際には上限金額まで拠出しているケースは少なく、権利をすべて使わずに余らせている状態といえます。せっかくなら、その権利を使い切ろうということです。

「マッチング拠出制度」とは、企業型確定拠出年金を導入する企業が、会社からの掛金に加えて、社員が自らの給与の一部を拠出できる制度です。ところが、この制度は、マッチングの自己拠出額について、企業からの拠出額を上回ってはならないという制約があります。会社が1万円掛けてくれているなら、本人も追加で1万円までしか掛けられない。また、所得税、住民税は軽減できますが、社会保険料は控除対象ではありません。

そこで、「選択制確定拠出年金」を使って、掛金の拡大を図ることをお勧めします。選択制確定拠出年金は、年金掛金として拠出するか、毎月の給与として受け取るかを、社員が選択できる制度です。マッチング拠出制度と異なり、会社の掛金額とは関係なく限度額いっぱいまで拠出でき、社会保険料の控除対象にもなります。

例えば、基本給のうち一定額を、「ライフプラン手当」のような名目で切り出して制度設計します。それを、社員各人が、給与として全額受け取るか、一部または全額を年金掛金として拠出するかを選択するのです。仮に、他の企業年金制度のない会社であれば、月額限度額5万5000円を最大限使うとすると、次のようになります。

例)基本給20万円の社員 → 新基本給14.5万円+ライフプラン手当5.5万円

基本給30万円の社員 → 新基本給24.5万円+ライフプラン手当5.5万円

こうした給与制度改定を行い、社員各人がライフプラン手当の全額もしくは一部金額について、掛金拠出か給与受け取りを選択するのです。

上記ケースの場合、これまで確定拠出年金制度を導入していた会社であれば、掛金をそのままにしておき、5万5000円との差額金額が、社員の拠出できる限度額となります。未導入の会社は、5万5000万円全額が社員の拠出可能額となるのです。

ただし、都市部の会社で新基本給14万5000円だけの給与額(5万5000円全額拠出した場合)だと、最低賃金を下回ってしまう可能性がありますので、低給与層に対する掛金の拠出制限を行うなどの措置が必要となります。

先述したように、選択制確定拠出年金の最大のメリットは、掛金分が所得から控除されるため、所得税、住民税、社会保険料が軽減できることです。家族構成などによって異なりますが、毎月5万5000万円を拠出した場合、年収500万円の社員で年間15万円前後、年収1000万円なら年間25万円前後の軽減効果(手取り増)が見込めます。

会社側、社員側の主なメリットは、以下のとおりです。

■会社側

 [主なメリット]

 ●掛金の追加資金負担なしで、社員に対する年金制度が導入できる

 ●掛金に応じて、社会保険料の会社負担分が軽減される

 [主なデメリット]

 ●運用コストが発生する(社会保険料負担軽減とのプラスマイナス)

 ●運用の手間が増える(投資教育など)

■社員側

 [主なメリット]

 ●掛金に応じて、所得税、住民税、社会保険料が軽減される

 ●運用益が非課税となる

 [主なデメリット]

 ●受け取りが、原則60歳以降となる(貯金のように必要な時に使えない)

 ●社会保険料の軽減分、公的年金の額が減少する

また、本制度導入により、残業代の時間単価が減額されるようなことがあっては、社員にとって不利益変更となっていまいます。そのため、先ほどのケースであれば、各人の拠出金額にかかわらずライフプラン手当全額(例のケースだと5万5000円)を、残業代の単価に入れておくなどの措置が必要となります。

2.投資運用商品の多様化

企業型確定拠出年金を導入する場合、実はほとんどの投資信託を投資メニューとして設定することが可能です。しかし、ほとんどの会社は、あまり投資商品メニューに気を使っていません。多くは、保険会社など運営管理機関にお任せ、という感じではないでしょうか。

たいていは、次のようなカテゴリーごとの投資信託を2~3商品ずつという構成になっています。

(1)元本確保型の預金など
(2)国内株式
(3)国内債券
(4)海外株式
(5)海外債券
(6)上記(2)~(5)を組み合わせたバランス投信

一見、15種類前後の投資商品から選べるように見えますが、元本保証型を除けば、①日本株か、②公社債などの国内債券、"海外"といってもアメリカの割合が圧倒的なので、③アメリカ株か、④アメリカ債券の4択、あるいはその組み合わせということになります。

日本では、貯金など元本確保型の商品を選ぶ人が多いのですが、金利がほとんどつかない時代ですので、一定のリターンを得ようとすれば、もう少し積極的な姿勢が必要です。

すると、国内株式か海外株式などを選びたくなりますが、第二次安倍政権以前では、日本株は長期低迷し、円高のため円ベースでは海外株式、海外債券も値下がり。たいていの社員は、損をしていました。

ところが、同じ頃、BRICSなどの新興国株式や金や原油といったコモディティ価格は、値上がりを続けていました。

もちろん、社員が年ごとの好調な投資対象を選択できる保証はありませんが、選択肢はより広くしておくべきではないでしょうか。

例えば、定番の投資商品に加え、国内外のREIT(不動産投信)、新興国株式(BRICSやASEAN諸国など、できれば国ごとに)、新興国債券、コモディティ(原油や金など)といった具合に、投資メニューを追加してはどうでしょうか。

「社員にそんなリスクを負わせられない」という声もあるでしょうが、選択肢を多様化しておくことは、非常に重要です。25年前より主要株価指数の下がっている国は、世界中見渡しても日本くらいでした。日本に投資すること自体が、最大のリスクであったのです。

年金である以上、20年、30年単位で運用を考えなければなりません。短期的にはブレるとしても、長期的に見れば、その国の名目GDPと株価指数には相関関係が見られます。国の経済が成長するから、株価も上がるのです。そう考えると、将来的に成長する余地の大きい国向けの投資商品を加えておくことは、至極当然のことのように思います。

仮に、大学を22歳で卒業して60歳定年まで38年とすると、月1万円ずつの掛金としても、掛金累計456万円に対して、

① 年率2%なら、約680万円
② 年率3%なら、約840万円
③ 年率5%なら、約1320万円

――といった資産の違いが出るのです。

大手企業ですら将来の雇用を保証できない時代。国の年金もアテにできない時代です。

「英国のEU離脱で金融市場が混乱している時に、タイミングが悪い」と思われるかもしれませんが、現在、年金運用で好成績を上げている人の多くは、リーマンショック直後に運用を始めた人たちであることも事実なのです。

商品メニューを増やすのに、大したコストはかかりません。企業の人事部門は、社員の福利厚生、資産形成への一助として、確定拠出年金の投資メニューの拡充・多様化を、真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

執筆者:山口俊一

人事戦略研究所 所長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、200社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。

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