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"仕事主義"の人事制度が浸透しづらい理由③

2020年05月20日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 上席コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

前回のブログでは、"仕事主義(=職務・役割主義)"の人事制度が日本企業でなぜ浸透しづらいのかについて、筆者が考える3つの理由のうち、2つ目の解説を行いました。 今回のブログでは、最後の3つ目の理由について、具体的に解説していきたいと思います。

日本企業において、"仕事主義(職務・役割主義)"の人事制度が浸透しづらい3つ目の理由は、「日本では職種別や職務別の外部賃金データが十分にそろっていない」という点です。仕事を軸にした人事制度、特に「職務」を軸にした人事制度の設計では、仕事(職務)の価値・レベルに応じて等級ランクや賃金水準を設定します。その際に重要となるのが、同業他社や同規模他社における職種・職務ごとの賃金水準、すなわち職種・職務別の賃金世間水準です。 繰り返し述べているように、「仕事(職務)」を軸にした人事制度を導入するということは、社員一人ひとりが実際に担当している「仕事」の価値/レベルに基づき処遇を決定することになります。また、採用にあたっても、長期的な雇用を見据えた上で採用時の賃金を設定するのではなく、採用後に担当してもらう「仕事」の価値/レベルに応じた賃金を設定・提示することになります。 上記の結果、当然ですが、年功主義や能力主義の場合よりも、社員一人ひとりに自分の「仕事(職務)」の価値やレベルを意識させることになります。また、中途採用においても、そのような意識(=会社ではなく仕事自体に対する高い意識)を持った社員を採用することになります。従って、もし「仕事(職務)」に対して自社が支払う賃金水準が、他社における同一職務の賃金水準よりも低い場合には、欲しい人材を採れない可能性が高くなってしまいます。もちろん、年功主義や能力主義の人事制度であっても、単純に他社よりも賃金水準が低ければ、採用においては不利になりますし、また既存社員の離職につながる恐れもあります。ただ、"仕事主義"人事制度の場合、「どの仕事にどれだけの賃金を支払うのか」ということが制度上で明確になるため、職務ごとの賃金水準が他社よりも高いか/低いかという点が、既存社員の動機付け(含むリテンション)や中途社員の採用においてより重要となるのです。

このため、"仕事主義"人事制度の下で賃金水準を設定する場合には、年功主義や能力主義の人事制度の場合よりも、より一層、職種や職務ごとの外部賃金データを考慮することが必要になります。しかしながら、日本企業の場合は、ここで大きな"壁"にぶち当たります。なぜなら、職種別や職務別の外部賃金データというものが、日本企業をターゲットにした調査結果として十分に存在しないからです。賃金調査で最も規模が大きいのは厚労省が実施している「賃金構造基本統計調査」ですが、その中でも職種別の賃金水準は調査されているものの、いわゆる現業職が多いため用途に限界があるというのが実情です。また、一部の外資系コンサル会社が独自に職種別の賃金調査(報酬サーベイ)を実施していますが、そのほとんどは大手企業や外資系企業が調査対象であり、かつ調査企業数も少ないため、多くの日本企業にとっては使いづらいデータになります。

以上のような日本企業を取り巻く実態、すなわち、職務ごとに賃金水準を設定したくても、日本では根拠とすべき職種別・職務別の外部賃金データに限りがあるが故に、日本企業において本当の意味での職務別賃金(=職務給)がなかなか浸透しないのです。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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