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一時金にも積立不足はあるのか?

一時金にも積立不足はあるのか?
年金の積立不足ばかり気にしていたのですが、一時金に対する積立不足もあるということですか。でも一時金は特に積立をしていませんし、積立不足という概念そのものがあまりピンときません。そういえば前回の分析で、今仮に全員が退職した場合の「要支給額」を計算しましたが、それが積立不足ということでしょうか。

いい線いっていますよ。しかしもう少し正確に把握してまいりましょう。まず「積立不足」という表現は適切ではありません。なぜなら一時金制度の部分はご指摘のように特に積立をしているわけではないので、「資金の積立」ではなく「会計上の処理」を行うことになるからです。このような会計処理のことを「退職給付会計」と呼び、退職給付債務はそこから出てくる概念です。会計処理の手順は、

という基本に立ち、毎期毎期継続して処理していくこととなります。退職給付債務の把握には、原則法と簡便法があり、従業員300人以上に企業については原則法の適用が課せられています。簡便法は質問にあった「期末要支給額」を債務とみなして処理する方法です。一方の原則法は、将来の給付も見込んだ上でそのうち当期いくら発生しているかを見積もって会計処理します。このあたりになるとかなり会計の専門的な内容になりますので、ここでは基本的な考え方を解説するにとどめます。

【図表6】は、ある同年齢の二人が同じ同時にそれぞれ退職金制度の異なるA社、B社に入社したと想定します。現実的にはありえないことですが、この二人は同じ賃金で、退職金を計算すると現時点では全く同じ要支給額となりました。簡便法(要支給額)に従って債務を把握すると、会社はそれぞれの社員に対して同額の債務を負っていることになります。しかし、今後二人が勤務を続けると、やがて退職金には開きが出てくるのは容易に想像できますね。したがって、原則法によれば、会社が負っている債務はA社の方が大きくなるのです。ここでおそらく「今後の給付水準は違うけれども、現在負っている債務は同じではないか」という疑問が生じるかもしれません。これに対して原則法では、現在の勤続年数に照らし合わせると将来の給付の一部はすでに発生している、という考え方をとります。具体的には今後発生する給付予定額を現在価値に換算する手法がとられ、そのことを専門家の間ではPBO(ピービーオー)と呼んでいます。【図表7】

ただし、この計算例は2年後のみを取り上げ計算していますが、実際には1年後も同様の計算をしなければなりません。

以上が退職給付債務の簡単な説明ですが、結論から言うと、一時金であれ年金であれ適正な会計処理をすることによって退職給付債務を認識しなければならず、企業の財務体質という点ではその償却(=費用化)を進めることが健全化につながるということを覚えておいてください。【図表8】は退職給付会計が企業会計に与える影響をイメージ化したものです。簿外債務を認識し、費用計上した上で会社の決算書の債務に取り込まれていく様子が分かるかと思います。

退職給付会計は、一連の会計ビッグバンの流れの中で2000年に導入されました。公開企業においては退職給付会計による決算開示をすることが義務付けられています。一方の非公開企業は義務づけはありませんが、自社の正しい財務状況を知ろうと思えば、やはり退職給付債務を把握する必要があるでしょう。特に従業員300人を超える企業には原則法の適用が不可決です。しかしさきほどのPBO計算はかなり複雑で、専用のソフトにてコンピューター計算しなければなりません。もし公認会計士や生命保険会社等に依頼すると、かなりの費用(数十万円)が予想されます。

今回は適格年金の現状分析から退職給付債務にまで発展して、やや難しいテーマに踏み込んできました。最後の退職給付債務の現状分析のポイントは、年金の積立不足だけでなく会社の負っている債務全体をも視野に入れる必要があるとの内容であったことを再度確認してください。 次回は、いよいよ適格年金の移行について述べてまいります。