人事戦略研究所 株式会社新経営サービス

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人事制度Q&Aよくある質問

人事制度を初めて導入する際や制度運用上のお悩みに関するよくあるご質問への回答をまとめています。

等級制度・役職制度

  • 等級制度(資格制度)を再構築しようとしています。等級数はどの程度が妥当でしょうか?

    「言語化できる範囲内で最大個数」を設定することが基本的な原則となります。理由としては、「社員モチベーションの観点からは、等級をなるべく多く設定して昇格機会を増やすのが良い」という一方で、「等級を増やしすぎると各等級間の違いが分からなくなり、年功的な昇格運用が行われやすくなる」という側面が出てきます。それらのバランスを取ったのが 「言語化できる範囲内で最大個数」であるためです。

    なお、この原則に沿うと、正社員数100名以下の企業で6~7等級、数百名規模の企業で7~9等級、1,000名以上の企業で8~10等級程度になることが多いです。

    実際に自社の社員を当てはめてみて、等級間の人材に明らかな役割や実力の違いがあるか確かめながら進めると、適正等級数を設定しやすいでしょう。

  • これまで、どうしても年功的な昇格(昇級)になっていましたが、これらを防ぐ方法はあるでしょうか?

    ①昇格ルールの明確化 と ②設定したルールの徹底的な運用 が重要です。

    ①に関して、中小企業においては「等級基準を作成し、昇格判定ツールの1つとして活用すること」をお勧めします。一般的な昇格ルールでは、「評価結果」や「上司推薦」が活用されること多いですが、これらは上司の主観に左右されやすいものです。昇格の是非を判断するタイミングで、等級基準の達成状況を複数人の目から改めて厳密に判定することで、一定の客観性を保てます。少し時間を要しますが、効果的な運用だと考えられます。

    なお、等級基準については、職種別に設定する方が具体的な等級基準となり、より厳密な昇格判定や部下育成に活用しやすくなるでしょう。

  • 専門職制度の導入を検討しています。制度設計の留意点を教えてください。

    まずは、どのような人材を処遇するものなのかを明確にする必要があります。例えば、「①高度専門職人材(明らかに秀でた技能・知識などを有する社員)」「②管理職にはできないが、非管理職の社員と比較するとレベルが高い人材/ポスト待ち人材」などです。

    ①のような位置づけとする場合では、年功的にならないような定義の作成および運用が重要です。年功的な運用がなされると、「専門職は管理職になれなかった人」という社内イメージを植え付けてしまい、本当に実力のある社員のモチベーション低下が懸念されます。

    ①・②のいずれの人材も想定される場合では、「本来の高度専門職」と「管理職候補や熟練技能者」といった形で複数のコースを設けることも考えられます。

    なお、専門職制度(特に①のような人材を対象とする場合)の導入において、「技術の陳腐化」への対応方針もあらかじめ設定しておく必要があります。「技術の陳腐化」で想定されることは、「日々刷新される技術に、該当の専門職社員がついていけなくなる」「その仕事そのものの市場あるいは社内的価値が下がる」といったことがあげられます。

  • 役職定年制が機能しません。どうしたら良いでしょうか。

    役職定年制が機能しない代表的な原因としては、「①役職定年後、何をしてもらったら良いか分からない」「②後進が育っていない」のいずれかです。

    ①への対応としては、「管理職のサポートを行う」「高度な技能を後輩に伝える」など、役職定年後の役割を明確にすることが必要でしょう。

    ②への対応としては、計画的に人材登用・育成を行うことが考えられます。特に、役職定年の対象となる社員に任せきりにしていては、後進育成が進まないケースも出てきやすくなります(後進を育てると、自らが役職定年となるため)。そのため、会社としての育成支援体制が必要です。

    なお、②のような理由で役職定年をさせないケースが多いような企業では、自社における役職定年制の必要性について、改めて考えてみるのも良いでしょう。

  • 等級制度を導入する際に、等級基準書は作成方法したほうがよいですか。

    等級制度を導入する際には、併せて等級基準書を作成することをお勧めします。
    等級基準書は、期待する社員像を示したものであり、社員の成長のものさしになります。各等級に求める要件について、等級間の差が明確になるよう、一つずつ定義しましょう。この定義が、昇格判定や人事評価を行う際の基準となります。また、上の等級に上がるために、具体的に何ができると良いのか、あるいは何をしないといけないのかがわかることで、人材育成に活用することもできます。

  • 人事制度に降格のルールを定めることはできますか。また、降格基準はどのようなものが挙げられますか。(懲戒処分としての降格、を除く)

    制度上の合理的な基準(就業規則上の等級規定等に明文化され周知されていることが必要)に基づいて降格させることは可能です。

    降格基準に主に用いられるのは、「個人評価結果(業績・成果やプロセス、勤務態度等)」です。
    具体的な一例として、通年または連続した年において、「5段階評価のうち最低評価を取得する」などの要件を設定し、経営会議または人事委員会にて最終判断とする、等のケースがあります。

    但し、人事権の濫用とならないように、仮に評価に基づいて行うにしても、その評価を裏付ける事実関係を収集し、その証拠に基づいて慎重に判断することが求められます。また、いきなり降格するのではなく、事前に注意・指導を行い、一定期間経っても改善の見込みがない場合に実行する等慎重なプロセスを経ることも降格対象者のモチベーションの観点からもポイントとなります。

人事評価制度(人事考課制度)

  • 人事評価表(人事評価基準)をつくる際のポイントを教えてください。

    人事評価基準は、評価の目的をどこに置くかによって内容が変わります。とにかく社員の評価ランク(評価の序列)が判定できればよいという会社であれば、全社共通の簡易的な基準でも、運用に力を入れることである程度機能させられるケースもあります。

    ただし、社員の能力開発や意識づけを行うことも人事評価の大きな目的の1つです。そのため、評価基準に社員への期待成果や期待行動を表わし、その基準をクリアしているかどうかを判定できるようにすることが重要です。

    上記の目的達成をより意識するならば、職種別に人事評価表を作成することをお勧めします。営業職、技術職、事務職といった職種ごとに、期待役割が異なるからです。例えば、「わが社が営業職に期待する成果、行動、スキルは何か」といった議論により評価項目を抽出し、項目ごとの評価基準(モノサシ)を設定していけばよいでしょう。

    当サイト内の「人事の書式・シート」で職種別の人事評価表サンプルを公開していますので、参考にしてください。

  • 部下との接点が少ない上司は、どのように部下を評価したら良いでしょうか。

    常に部下の様子を見ることはできずとも、ポイントとなる場面での情報が得られていれば、評価する上で必要となる部下の仕事ぶりを把握するのは概ね可能かと思います。そのためには、どのような所から部下の行動事実を収集するかをあらかじめ想定してください。

    具体的には、「会議や営業訪問の場面などの具体的な節目を設定し、意識的に観察できる機会をつくる」「上司以外で接点の多い人から部下の情報を取る」などが考えられます。加えて、「部下の作成物などの具体的なアウトプットの観察」と、「本人へのアウトプット作成の手順・方法、苦戦した事項などの確認」を合わせて行うことで、仕事ぶりがより把握できるでしょう。

    事前に想定した情報収集も行わなかった場合では、評価の精度が著しく落ちかねません。「月に1回は部下の営業に同行する」など、決めた観察方法については、必ず行うようにしてください。

  • 人事評価のフィードバック面談の社員からの評判が芳しくありません。改善する方法を教えてください。

    まず、最低限のOff-JT(フィードバック面談実施方法の研修など)は必ず行ってください。十分なフィードバック面談を行うためには、「①フィードバック面談の目的・重要性」「②面談で伝えるべき事項」「③コミュニケーション上のテクニック」を上司が押さえる必要があります。特に、こうした教育をこれまで行ったことがないという企業では、1度の研修を実施するだけでも、「面談を行おうとは思うけど、何をすれば良いか分からず、何も行動できない」という上司が発生する状態は解消できるでしょう。

    加えて、フィードバック面談後に社員アンケートを実施し、面談の実施状況や、評価・フィードバック内容に対する納得度を調査することも効果的です。面談が行われていない、納得度が低いなどの部署があれば、そこの管理者に対して重点的に教育、フォローを行うことになります。

    人事評価を能力開発や意識づけに活用する上で、フィードバック面談の重要性は高いため、しっかりと取り組んでいただければと思います。

  • 絶対評価か相対評価、どちらを採用するのがよいですか。

    絶対評価は、評価が何点であればどの評語(例えば、SABCD等)かが決まるため、評点と評語の対応関係が明瞭明快で社員にとって分かりやすいことがメリットとして挙げられます。デメリットしては、逆算して評価しようとして各項目の評価を歪める可能性がある(例えば、A評価の点数になるように評価する等)、評点が上振れすると人件費を増大させるリスクがある(例えば、SやA評価ばかりになる等)などが挙げられます。(但し、厳密には、絶対評価であっても賞与や昇給に原資調整の仕組みを入れてコントロールする方法もあります)

    一方、相対評価は、評点をもとにしながら、予め決められた出現率になるように評語(例えば、S:5%、A:20%、B:50%、C:20%、D:5%等)を決めるため、評点が上振れしても評語を一定に振り分けできるため、無理な人件費増大を防ぎやすいことがメリットとして挙げられます。デメリットとしては、全体の分布状況が分からないと評点だけでは評語が決まらないため、社員にとって分かりにくい、所定の出現率を無理に当てはめようとすると、違和感のある評語決定になる可能性がある(評点は高くないのに最高評価、評点は低くないのに最低評価など)などが挙げられます。

    どちらも一長一短ですので、どちらが、より会社として適切に評価できるか、社員にとって納得感があるかなどを踏まえて決めることが肝要です。なお、一般的には、一次評価は絶対評価を基本とし、二次評価や最終評価に相対評価を採用されるケースが多いです。

  • 評価結果が中心化しがちで、なかなかメリハリがつきません。どうしたらよいですか

    仕組みとしてメリハリをつける方法としては、相対評価を入れることで、強制的に所定のメリハリ(評語)をつけることが可能となります。但し、所定の出現率を無理に当てはめようとすると、違和感のある評語決定になる可能性がある(評点は高くないのに最高評価、評点は低くないのに最低評価など)ことに留意が必要です。

    仕組み以外でメリハリを適正につけるには、評価者の評価能力を上げることが肝要です。「中心化傾向」になってしまう主な原因には、部下の観察不足や、評価に対する自信が不足していることが挙げられます。その結果、どう評価してよいかよく分からないので、とりあえず無難な真ん中の評価をしてしまうということが考えられます。評価者研修等を通じて、部下の日常観察の重要さや評価項目の定義や基準について理解を深めることが重要です。

  • 評価のフィードバックを行っていないのですが、問題ないでしょうか。

    評価のフィードバックは行う方が望ましいです。
    フィードバックを行わないと、自分がどう評価されているのかが分からず、処遇の納得感や働くモチベーションの低下につながる可能性があります。加えて、本人評価を行っている場合には、評価しっ放しとなり制度自体が形骸化してしまう恐れがあります。

    また、人材育成を評価の目的とした場合、フィードバックは必要不可欠なものです。フィードバックを通じて、自分ができていることとできていないことを認識したり、自身に期待されていることや今後の成長課題を上司と擦り合せたりする機会ですので、フィードバックは必ず行うことをお勧めします。

  • 人事考課・フィードバック面談はどのタイミングで行えばよいですか。

    フィードバック面談には、一次評価者が一次評価を確定させる前に行う「事前考課面談」と最終評価確定後に行う「結果通知面談」があります。

    事前考課面談は、一次評価を行うための情報収集や、半期・一年間の振り返りと今後の成長課題について本人と擦り合せて人材育成につなげることを目的に実施します。

    結果通知面談は、最終結果を通知するとともに、今後に向けた課題について本人と擦り合せて人材育成につなげることを目的に実施します(事前考課面談を実施している場合は、最終結果の通知がメインとなります)。

    両方できることが理想的ではありますが、現実的には、部下の人数などから、それだけの時間と労力をかけられないことがあると思います。その場合でも、評価制度をきちんと機能させるためには、少なくとも結果通知面談は実施することをお勧めします。

  • 部門間の評価の甘辛について調整方法はありますか。

    一般的には、人事評価は、人事評価シートに基づいて「評点」を算出し、その評点を基に「評語」(例えば、SABCDなど)を決定します。ご質問の部門間の評価の甘辛を調整する方法としては、「評点」を客観的あるいは主観的に調整する方法と、「評語」を客観的あるいは主観的に調整する方法があります。

    ①「評点」の甘辛を客観的(数学的)に調整する方法として、
    ・平均点調整(全社の平均点または基準値に、各評価者の平均点を合わせるように調整する方法)
    ・標準偏差で調整(全社のばらつき=標準偏差または基準偏差に、各評価者のばらつきを合わせるように調整する方法)
    などがあります。

    ②「評点」の甘辛を主観的に調整する方法として、
    ・評価調整会議(評価者間で特に評点の高い人や低い人の根拠を擦り合せる場を設ける)
    ・評価者訓練(評価者の評価能力の向上を図る)
    などがあります。

    ③「評語」の甘辛を客観的(数学的)に調整する方法としては、
    ・相対評価方式(各評語の出現率を想定し、その分布となるように評語を決定)
    ・持ち点方式(絶対評価で評語を仮決めしたうえで各部門の持ち点が一定範囲内に収まるように評語を調整)
    などがあります。

    ④「評語」の甘辛を主観的に調整する方法としては、
    ・評価調整会議
    などがあります。
     上記②の評価調整会議は、二次評価者が一次評価者を集めて行うイメージです。各評価項目に対する評価やその根拠も含めて擦り合せを行うものです。一方、④の評価調整会議は、評点は出そろっていますので、最終評価会議で行うイメージです。各社員の詳細までは分からない場合も多いと思いますので、部門間の分布状況や特に高いまたは低い評価の社員が横ぐしを指したときに適切であるかをチェックするものです。

    以上のなかから一つだけ選んで行うよりも、複数の手法を組合わせて行うことが望ましいです。多段階での調整を経ることで、甘辛調整だけでなく、手続き的公平性の観点からもより納得感のある評価に繋げることができます。

目標管理制度(MBO制度)

  • 目標管理(MBO)による評価を導入しています。個人目標が会社目標とあまり連動しておらず、設定目標の水準も個人差が大きく困っています。

    個人目標にバラツキが多い会社の特徴として、目標設定の考え方や手順が不明確なことが挙げられます。逆に、目標管理(評価)が上手く機能している会社の特徴は、以下のようになります。

    (1)会社の経営計画、部門計画が明確になっている。
    (2)部門目標から個人目標設定に至る手順を定め、社員に浸透させている。
    (3)管理者が目標管理の必要性や考え方を十分に理解し、部下への指導力がある。

    経営計画、部門計画がないのに、個人の目標管理だけを機能させることは不可能です。また、目標管理は管理職のレベルが如実に表れる制度ですので、管理職に対する徹底した教育や意識づけがカギを握るのです。

    あと、目標管理制度導入の初期段階としては、部署別・階層別の目標設定事例集などを作成・配布し、適切な目標とはどのようなものかを社員にイメージさせることも有効でしょう。

    これは過去に設定された個人目標の中から、適切と思われる目標を抽出し、職種や等級ごとに整理することで作成できます。

  • 目標管理(MBO)に頼らず、社員の業績を評価したいのですが、どのような方法があるでしょうか?

    よく目標管理評価を導入している企業では、社員の業績を評価するには目標管理しかない、と考えている方がいらっしゃるようです。しかしながら、仕事の成果や業績を評価する方法は1つではありません。

    例えば、営業職や店長職など個人としての業績が数値化しやすい職種であれば、あらかじめ売上高、粗利益高、新規顧客獲得数といった成果指標を決めておき、業績評価すればよいでしょう。その際、「目標値に対する達成度」は1つの評価基準でしかなく、「前年からの伸長率」「絶対的な大きさを測る絶対値」など複数の観点から判定する方法があります。

    技術職などで、営業部門や顧客からの要望にその都度対応する仕事であれば、期首に目標設定しても業務がどんどん変わります。であれば、半期や1年が終わった時点で、その間に取り組んだ業務を書き出し、その品質や納期などを判定する事後評価の方がスムーズというケースもあります。

    また事務職など定型業務中心の職種であれば、業務量、スピード、正確さ、品質といった観点で、仕事の成果を判定する方が適切ではないでしょうか。何が何でも目標を設定しなければ、成果評価できないということはありません。

給与制度(賃金制度)

  • 基本給はどのような要素で構成したらよいか、教えてください。

    基本給の構成要素として代表的にあげられるものは、「年功給(年齢給・勤続給)」「職能給」「役割給」「職務給」「成果給」などがあります。何を採用するかは、会社のポリシーに応じて決定する必要がある、というのが結論になります。

    大きなトレンドとしては、年功給と職能給中心の体系から、職務給や成果給の割合が拡大しつつあります。ただし、給与制度は業種・職種特性や会社ごとの思想、人材マネジメントのあり方を基に決定するものです。年功給中心の会社も、成果給中心の会社も、どちらが良い悪いということはありませんので、「近年のトレンドだから」という理由のみでの見直しは危険です。

  • 職能給など、オーソドックスな基本給を設計する際の留意点を教えてください。

    オーソドックスな基本給テーブルの設計にあたっては、大きく分けると「等級ごとの上限・下限の金額」と「等級・評価ごとの給与改定ルール(昇給額)」を検討することになります。

    検討にあたっては、「その等級(≒仕事レベル)に最低いくら払うべきか・いくらまでなら払ってよいか」「同一等級に滞留した場合、何年間程度の昇給余地をもたせるか」「昇格時の昇給額は十分に確保できているか」「同業他社の水準と比較してどうか」「毎年の昇給額は現状と比べてどの程度となるか」「各モデル(優秀者、標準者など)の賃金カーブはどのようになるか」などの観点を複合的に見ながら検討します。

    賃金制度は頻繁に変えられるものではありません。設計にあたっては弊社などの外部専門機関活用の検討も含めて、慎重に進めてください。

    なお、当サイト内の「人事の書式・シート」で賃金表サンプルを公開していますので、参考にしてください。

  • 定期昇給を伴わない給与制度には、どのような方法があるのでしょうか?

    通常1年経過すれば確実に昇給するしくみが定期昇給です。年齢給なら1歳分、勤続給なら1年分、職能給なら評価に応じた1年間の成長分の給与を引き上げることになります。

    職能給体系のままで定期昇給を行わないしくみとなると、標準評価の人は据え置き、評価の高い人だけ昇給する、といった給与改定基準になるでしょう。評価の低い人は減給することになるかもしれません。

    仕事内容に応じて決定する職務給体系であれば、評価連動型の給与制度を導入するという選択肢もあります。3等級のS評価は30万円、A評価は29万円、B評価は28万円というように決めておけば、1年間の人事評価結果によって前年より上るケースもあれば、据え置きや下がるケースも出てきます。こうすれば、定期昇給ではなく定期給与改定という表現が適切でしょう。

    業績指標に連動した業績給や歩合給も、定期昇給という概念を持ちません。このように、確実に昇給していくしくみをなくすこと自体は可能です。ただし、それでは社員のモチベーションにも大きく影響しますので、『定期昇給は残すが賞与は業績連動を徹底する』といった方式から、まずは検討してみてください。

  • 諸手当を整理したいのですが、どのように進めればよいかアドバイスしてください。

    法律上、残業代などを除いて、必ず支給しなければいけない手当はありません。大半の企業が支給している通勤手当ですら、法的には支払い義務はありませんし、全く通勤手当を支給しない国もあります。

    給与制度改定の際には、基本給だけでなく、諸手当についても見直せばよいでしょう。諸手当整理のポイントは、現在の自社によって必要性があるかどうか、をじっくり検討した上で決定することです。「もし全くゼロの状態から給与制度を考えるとしたら、その手当をつくるだろうか」と考えてみるのです。

    例えば、家族手当。配偶者分はなくす代わりに、子供分は増額する会社があります。少子化対策に貢献したい、というその企業独自の考え方があるからです。

    公的資格手当なども、現時点あるいは今後の自社での必要性によって対象資格に優先順位をつけ、手当額などを決めればよいと考えます。

    ただし、単純になくすのは社員にとって不利益変更になりますので、給与制度全体を見直す際に、他の給与項目に組み入れるかたちで廃止するといった措置が必要になります。

    なお、非正規社員を雇用している企業では、見直しを行う際には同一労働同一賃金との兼ね合いも考慮すると良いでしょう。弊社WEBサイト「同一労働同一賃金.com」では、同一労働同一賃金に関する情報提供を行っておりますので、そちらも参考にしてください。

  • 賃金テーブルは公開したほうがよいですか。

    まず賃金テーブルの公開についての法的な解釈ですが、就業規則の絶対的記載事項に該当するため開示義務があるとするという考え方を基本としながらも、開示義務までは負わないと解釈する専門家もおりグレーゾーンと言えます。実態として賃金テーブルを公開されていない企業も多いかと思います。

    そのうえで、基本的には、賃金テーブルは公開する方がよいと思います。公開により、制度の透明性や信頼性が増すとともに、「等級や評価がどうなればどの程度の給与となるのか」についての基準を示すことで、社員が将来のキャリアパスを描きやすくなります。

    ただし、給与決定にあたって、会社業績や個人の状況を勘案して裁量的に決定していたり、客観的で公平な評価ができていなかったりする場合においては、逆効果となることもあります。こういった場合には公開することを一旦保留することも一つの選択肢です。

  • 年齢給のメリット/デメリットを教えてください。

    メリットは、社員にとって分かりやすく、個人の能力や役割・成果等に関係なく、毎年安定的に昇給するため、安心感を与えることができることです。また、評価を介さずに昇給ができるため人事側の運用もシンプルです。

    デメリットは、毎年固定費的に人件費が高騰していくことです。また、個人の能力や役割・成果等に関係なく昇給するため、頑張っても頑張らなくても同じであると捉えられ、特に優秀な若手社員から見たときに不平不満を持たれやすい点が挙げられます。

  • 固定残業制(予め定めた時間分の残業代を固定給として支給するしくみ)の導入を考えていますが、メリット/デメリット、留意点を教えてください。

    まず固定残業制は、予め定めた時間分の残業代を固定給として支給する仕組みです。留意点は、残業時間の実績が、予め定めた時間より少ない場合でも固定分を支給する必要があること、逆に実績が予め定めた時間より超過した場合にはその超過分に対する残業代を別途追加で支給する必要があることです。

    その上で、メリットは、予め定めた時間よりも短い時間で働いても固定分が支給されるため業務効率の向上が期待できること(残業せずに早く帰ろうとする等)や、毎月の固定支給分が増えることによる社員の生活に対する安心感の向上等挙げられます。また、予め定めた時間の超過が少なければ人件費を把握しやすく見通しを立てやすくなります。

    デメリットは、残業時間の実態が予め定めた時間よりも軒並み少ない場合には本来払わなくてもよい人件費が発生することになります。ただし、これをデメリットと捉えるかどうかは、前述の業務効率の向上含めて各社の判断で見解は分かれるといえます。また、残業時間の実態が予め定めた時間よりも軒並み多い場合には、結局残業代を計算し、固定残業代を差し引いて追加支給する等、却って煩雑になる可能性があります。

賞与制度・報奨金制度

  • 業績に応じた賞与総額の決定基準(業績連動型賞与制度)をつくりたいと考えています。どのようにすればよいか教えてください。

    賞与原資・賞与総額の決定については、業績連動型を志向する会社が増えてきました。明確な業績指標を設定することで原資決定基準を作成しようというのが業績連動型賞与制度です。

    様々な業績指標が考えられえますが、会社にとって最も採り入れやすいのは、経常利益や営業利益でしょう。利益が多い年は賞与も手厚くするが、利益が少ない年は賞与も減らすという流れは、企業経営者の観点からは納得しやすいからです。

    その際、利益の絶対額と賞与総額を連動させる方法のほかに、売上高に対する利益の割合(=売上高対利益率)、株主資本に対する利益の割合(=ROE)といった収益性指標を使うことも、それぞれに合理性があります。

    また、社員から見れば、売上高や粗利益高の方が分かりやすいということで、指標として加える会社もあります。

    業績指標が決まれば、過去の実績や今後の見通しから、何度もシミュレーションを繰り返し、適切な連動基準を設定します。売上高対営業利益率5%の時に基本給2ヶ月分の賞与、といった具合です。

    なお、導入直後に業績が悪化した場合、制度そのものに対する社員の不満・不信感につながりやすくなります(会社が賞与を引き下げようと意図して導入していなかったとしても、それが社員には伝わりにくい)。そのため、導入するタイミングにも可能な限り注意が必要です。

  • 業績に応じた賞与総額の決定基準(業績連動型賞与制度)をつくることのメリットとデメリットを教えてください。

    メリットとしては、「人件費コントロールが行いやすい」「社員に対して業績向上を目指す動機付けとなる」といったものが挙げられます。

    デメリットとしては、「賞与原資を機械的に算出することになるため、経営上の想定外の事態が生じた場合や、投資計画を見据えた内部留保が必要な場合などがあっても、柔軟に対応できない恐れがある」「業績指標と賞与原資の関係について、適切な落とし所を見出すのが難しい」と言ったことがあげられます。

    導入する場合は、デメリットを緩和するために、「おおまかな目安程度で設定し、経営判断で最終的な原資は調整する」という運用を行うケースも多く見られます。

  • 賞与が年功的で個人差のつかない状態となっています。個人の貢献度に応じた賞与支給基準にするには、どうすればよいでしょうか。

    例えば、賞与=基本給×平均月数×人事評価係数 といったオーソドックスな算定式だとします。

    賞与の個人格差を広げるには、まずは人事評価係数の評価間格差を広げることです。上下20%の格差を30%にすれば、評価による個人格差拡大が実現します。

    一方、案外見落とされがちなのが、基礎ベースとなっている基本給です。基本給は通常、経験年数に応じて昇給していきます。すると、同じ職位・等級内でも昇格したての若手社員と滞留年数の長いベテラン社員では、給与水準に大きな開きがあるのではないでしょうか。そうすると若手社員がどれだけがんばっても、評価の低いベテラン社員より賞与が低いといった現象が発生します。

    そこで、基本給の代わりに、等級別基礎額や職位別基礎額を設定して、賞与決定式に使用するという方法が考えられます。これにより、年功的な要素を排除することができます。

    そのほか、平均月数を全社一律ではなく、業績の良い部門に傾斜配分する部門別業績賞与を検討してもよいでしょう。

  • 報奨金制度の導入を考えています。 報奨金制度設計のポイントを教えてください。

    報奨金制度を上手に活用すると、あまり人件費コストを増やさず、社員の業績向上へのインセンティブを高めることができます。

    営業部門や店舗部門であれば、部門全体や個人の売上高目標の達成時に一定金額を支給する、といったしくみです。利益や新規顧客開拓、新商品販売、在庫回転率など、社員の意識を高めたい業績指標を重点的に設定して、制度化するのがよいでしょう。

    報奨金制度を設計する際のポイントを整理すると、以下のようになります。

    1.シンプルであること
    複雑な指標を設けない。簡単明瞭な基準とする。
    2.達成可能な基準を設定すること
    高すぎる達成基準は、かえってやる気を低下させる。
    3.効果的な支給方法を演出すること
    できれば現金で、皆の前で達成感を味わえるように手渡す。
    経済の先行きが不透明な中で、給与や賞与を大幅に増やすことは難しいでしょう。報奨金制度を社内の業績意識向上の施策として、是非とも活用してください。

退職金制度

  • 退職金を社員の貢献度により決定したいのですが、どのようにすればよいでしょうか?

    退職金制度を、基本給基準からポイント制に変更する会社が増えています。基本給基準とは、退職時基本給に勤続年数別係数を掛け合わせて算出する方式です。

    一方、ポイント制退職金制度は、等級や職位ごとにポイントを設定しておき、毎年積み上げていきます。退職時には、個人ごとに累積されたポイント合計に、1ポイント当たり単価を掛け合わせて退職金額を算出する方法です。メリットとしては、「柔軟な設計ができる(=何に対して払いたいかを細かく設定できる)」「基本給と切り離されており、ベースアップや賃金制度改定の影響を受けない」などがあげられます。

    また、人事評価結果をポイント化して反映すれば、より社員の貢献度を反映させるかたちとなります。ただし、人事評価の安定的運用が前提となることや、ルールや管理が複雑になりますので、評価ポイント導入の是非については判断が分かれるところです。

  • 人件費を抑制するため、退職金水準を引き下げたいのですが、そのようなことはできるのでしょうか?

    退職金の支給基準を単純に引き下げることは、社員にとって不利益変更となりますので、労働組合や社員の同意が必要となります。そのため、引き下げることの必要性を社員に納得してもらえるか、が重要となります。

    その際も、支給基準改定時点までの退職金額については既得権ということになりますので、その分は社員に保証しなければなりません。経営状態が極端に悪化しているようなケースを除いては、単純な退職金水準の引き下げに関しては、社員の納得を得ることは困難でしょう。

    ポイント制に切り替えることで、毎年の貢献度を反映した退職金に転換する。あるいは、退職金水準引き下げに代わる待遇改善を同時に実行する、といった並行施策が社員の納得性を得るためには必要となるでしょう。

周辺制度

  • 定年再雇用制度を設計する際のポイントを教えてください。

    「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」改正により、定年を65歳未満に設定している企業は、段階的に

    1.定年を65歳まで引き上げる(定年延長)
    2.65歳までの「継続雇用制度」を導入する
    3.定年制を廃止する
    のいずれかの実施を義務づける、こととなりました。

    「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」改正により、 定年を65歳未満に設定している企業は、段階的に 1.定年を65歳まで引き上げる(定年延長) 2.65歳までの「継続雇用制度」を導入する 3.定年制を廃止する のいずれかの実施を義務づける、こととなりました。

    多くの企業は、2の「継続雇用制度」を選択しています。一旦60歳で定年になるものの、その後嘱託社員などの形態で再雇用するというものです。

    定年再雇用制度のポイントは、再雇用対象者となる基準と再雇用後の賃金制度です。対象者の基準設定については、本人意思に加え、健康状態、勤怠状態、そして人事評価など基準を明確化しておくことが重要です。人事評価であれば、「定年前2年間が標準評価以上であること」というように明らかな基準を設定するのです。

    賃金については、定年前の50~70%程度で決定する会社が多いようですが、その決定方法は各社各様です。定年後は全員一律金額にするケース、定年前給与の○%とするケース、再雇用後の期待等級を設定し等級別給与額とする会社などがあります。

    これら再雇用制度の基準設定については、どの程度の社員に定年後も残ってもらいたいか、という会社方針に左右されます。できるだけ多くの社員に残ってもらいたい会社であれば、対象者基準はできるだけ緩やかにし、賃金水準も高めに設定することになります。

    なお、定年再雇用者に対しても同一労働同一賃金が適用されます。賃金差を設ける場合には、「正社員(定年採用前)とどのように仕事が変わるのか」といったものを整理する必要があるでしょう。それと同時に、単純に「定年前の○%」とする制度でなく、「再雇用後の役割に応じた処遇」とすることが、より求められるようになるかもしれません。

    弊社WEBサイト「同一労働同一賃金.com」では、同一労働同一賃金に関する情報提供を行っておりますので、参考にしてください。

  • パートタイマーの人事制度を考えています。パートタイマー制度設計の際の留意点を教えてください。

    小売業や飲食業などでは、パートタイマーの活用力が店舗収益に直結します。

    パートタイマー制度を考える際には、等級、評価、給与、社員登用制度をセットで考えるようにしましょう。

    まず等級や職位を設けるかどうかは、パート社員の人数と期待役割によって決定することになります。パート社員の中でもリーダー的な役割をつくりたいのであれば、等級や職位を設けるとよいでしょう。

    人事評価については、できるだけ実施してください。仕事への意欲や能力アップにつながります。

    給与制度は難しいところです。大手スーパーなどは、等級、職種、地域などによって明確な時給決定基準を設定しています。ただし、明確な給与制度をもつということは、企業としての運用力が求められます。店長1人で何十人ものパート社員の評価、時給改定を行わないといけないような事業もあるからです。運用力に自信のない会社は、時給決定のルールをあまり明確にしない方がよいかもしれません。

    社員登用ルールについては、パートタイマーの意欲向上にもつながり、優秀な人材を正社員化できるメリットがあります。会社の組織方針に沿って、制度内容を検討することになります。

    あとは、教育とモチベーション施策も重要です。早期育成のしくみがあり、優秀な人材を定着させられる会社が、パートタイマーを活用できるのです。

    また、今後は、同一労働同一賃金への対応も求められます。「正社員との違いは明確にできるか否か」「正社員との賃金差は均衡と言えるか」といった点についても、十分な検討が必要となります。

    弊社WEBサイト「同一労働同一賃金.com」では、同一労働同一賃金に関する情報提供を行っておりますので、参考にしてください。

その他

  • 従業員15人の小さな会社のため、 社長の私が全社員を把握できます。それでも人事制度は必要でしょうか?

    15人くらいの規模であれば、社長ご自身が社員の働きぶりを見ながら、給与や賞与の査定をする形でも問題ありません。事実、経営者の感覚で査定した結果が妥当な評価になることも多いものです。但し、中期的な企業成長を勘案した場合、人事制度を整備しておくことはメリットがあります。

    これから社員にどのような方向性で頑張ってもらうか、具体的にどのような能力・行動を期待するのかなど評価と処遇の基準を明確にすることで、効果的な人材育成と適切な人材採用が実現しやすくなるからです。

    このような理由で、優良な業績を上げている企業ほど、かなり小規模な時点から人事評価と処遇の仕組みを整えている歴史を持っていることも事実です。

    また、一定の規模を超えてから人事評価賃金制度を入れた場合は必ずこれまでなんとなく実施してきた社員の評価や登用について蓄積された矛盾是正が必要となります。このようなことを総合的に勘案して制度設計のタイミングなどをお考えいただくと良いでしょう。