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採用競争力の向上に向けた「賃上げ」について(4)

2018年01月30日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

前回のブログでは、採用競争力の向上に向けた「賃上げ」について、「具体的にどのような引き上げ施策を採用するべきか、できるのか?」という観点から、想定される賃上げ施策のパターンを紹介した。本ブログでは、前回提示した5つの施策のうち、本稿の主題に最も合致すると考えられる「⑤業績連動給与による賃金水準の引上げ」について、具体的な解説を行うこととする。

 

~~『業績連動給与』による賃金水準の引き上げ~~

 

当該施策の導入が想定される企業

○賃上げに伴う将来の財務リスクを可能な限り抑えるため、変動費の部分で非恒常的な賃上げを実施したい企業

○具体的には、「今は業績がよいので賃上げをしてもよいが、将来的に業績が落ち込んだ際には(業績によって引き上げた部分の)賃金を引き下げたい」といった方針を持っている企業(例:中小企業や景気変動の影響を受けやすい企業など)

○賃上げを採用競争力の向上につなげるため、賞与ではなく月例給与で賃金の引き上げを実施したい企業

 

当該施策に基づく給与体系(※一例)

月給 = 基本給(能力給) + 役職手当 + 会社業績給+その手当(割増手当等)

 

会社業績給の決定方法(※一例)

○会社業績給は、通期の全社業績よって決定

○会社業績の判断指標は「付加価値高」と「一人当たり付加価値高」の2つを採用

○2つの指標ごとに、業績数値に応じた会社業績給の支給額を等級別に設定

(※会社業績給の判断指標に「一人当たり付加価値高」を採用しているのは、生産性の向上有無/程度を判定するためである。これは、賃金水準の引き上げ有無を判断するにあたっては、基本的な考え方として「生産性向上」が実現されているか否かが重要な要素となるからである。)

 

業績連動給与の仕組みについてであるが、上述の解説の通り、特段難しい設計等が必要になるわけではない。要は、給与の一部に賞与のような会社業績連動型(変動型)の支給項目を採用する、というだけの仕組みである。この仕組みを取り入れることにより、会社にとっては、業績が良ければそれに応じて給与水準を引き上げることができ、その結果として採用競争力の向上につなげていくことが(期待)できる。また、会社業績が悪くなった場合でも、あらかじめ決められたルール/範囲内で給与水準を調整することができるため、業績好調時に引き上げた賃金が重荷になることもない。すなわち、賃上げに伴う将来の財務リスクを抱えることにもならない。このように、会社側にとっては、採用の観点からも、人件費コントロールの観点からも、非常に都合の良い仕組みであると言える。

一方、既に入社済みの既存社員にとっては、ともするとマイナスの仕組みに映るかもしれない。なぜなら、給与の一部が(自らのパフォーマンスとは直接関係のない)会社業績によって下がる可能性があるからである。しかしながら、この点については"設計"と"説明"の方法次第で、社員がマイナスの感情を持つことをある程度抑え込むことは可能である。

具体的には、制度導入時点の会社業績に基づいて、下限となる会社業績給の金額を設定するという方法である。当該施策の導入目的は、あくまでも「採用競争力向上のための将来に向けた賃上げ」である。従って、もし賃上げ後に会社業績が悪化した場合であっても、引き下げ対象とする部分は当該制度導入後に引き上げた水準(金額)をMAXとすべきである(※仮に、それ以上の人件費抑制を実施したい場合には、賞与の部分で行うことが望ましい)。このようなテーブル設計にしておき、かつ、その辺りの趣旨やルールをしっかりと社員に説明しておけば、少なくとも制度導入時の既存社員にとって損するような仕組みではないため、マイナスの捉え方をされる可能性は低いと考えられる。

 

なお、当該施策を実際に導入・運用するにあたっては、2つの点で注意が必要となる。1つ目は、導入に際しては「不利益変更とみなされる可能性がある」という点である。もう一つは、採用に際して応募者に「十分な制度説明が必要である」という点である。これらの注意点は非常に重要な内容となるので、次回のブログにおいて具体的な解説を行うこととする。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。