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「定年後再雇用、同じ仕事で賃金カットは違法」問題

2016年05月21日 カテゴリ:労務関連

執筆者:森中 謙介

人事戦略研究所 コンサルタント

大学院では会社法務・労働法務を中心とした法律学の研究に従事。新経営サービス入社後は、主に中堅・中小企業を対象とした人事評価・賃金制度構築のコンサルティングを行なう。労務管理の分野にも精通し、最近では「残業削減」をテーマにしたセミナーや雑誌記事の執筆「改正労基法への実務対応①~④(人事マネジメント誌)」など、精力的に活動している。

最近、重要な判決がありました(2016年5月13日)。テレビニュースにもなったので、ご覧になった方も多いかもしれません。定年後再雇用になったトラック運転手が、定年前と同じ業務なのに賃金が下がるのは違法だとして会社側に訴えを起していたもので、東京地方裁判所は「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に違反する」と認定し、定年前の賃金を基準として差額分を支払うよう命じたというものです。定年後の再雇用に関して賃金格差を違法と認めた事例は初ということで、「画期的な判決」「今後の再雇用制度設計を企業は抜本的に見直さざるを得ない」などと報道されています。

まだ地裁の段階ですし、今後最高裁で判決が確定するかどうかも不透明ですから何とも言えない部分はありますが、重要な判決であることは間違いありません。そこで、簡単に論点を整理しておきたいと思います。

一般的には高年齢者雇用安定法が定める「雇用確保措置の義務」に従って再雇用制度を採用している企業が大半であり、また、再雇用後は現役時代より賃金が3~4割程度下がるのが、これまた一般的です。高年齢者雇用安定法では再雇用後の労働条件についてまで規定していないため、極端な話、企業が再雇用者をいくらで雇うかについては企業側が握っているということになります。そのため、仮に定年前と同じ仕事をフルタイムでやっていたとしても、「再雇用なのだから(労働契約を結び直している)」という理屈で、賃金カットを行う運用が通例化しているのです。もちろん、賃金カットをする代わりに定年前と業務内容や責任の緩和、労働時間の減少等がセットで行われる例もあり、そうした場合は本件のような問題はほぼ起こりませんが、営業訪問等で伺う企業先では「定年前と同じ仕事で賃金カット」を行っている会社が多いのが実態です。

改めて本件のポイントは「同じ仕事で再雇用しているのに賃金をカットする」という企業側の対応が「労働契約法違反にあたる」と判断されたことにあります。企業側は「高年齢者雇用安定法に則った適正な運用」であることを主張したようですが、裁判では「労働契約法20条(有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めの有無を理由とする不合理な労働条件設定の禁止)」の問題として判断されることとなりました。

もしこの判決が最高裁で確定するようであれば、今後様々な問題が生じます。まず、そもそも高年齢者雇用安定法自体の見直しの必要性。同法の中でも「再雇用制度」は事実上再雇用後に賃金減額になることを企業側に許容する仕組みになっていますので、このままでは成り立たなくなります。次に、「高年齢者雇用継続給付」の問題。この制度は再雇用後に報酬が減った割合に応じて雇用保険から給付金が支給されることになっていますが、そもそも収入が減ることを前提とした制度設計になっていますので、これも理屈が合わなくなりますので、見直しが必要になると思われます。

また、企業側にも再雇用制度設計の見直しが求められます。これまでのように、同じ仕事で賃金カットが難しくなりますから、賃金カットを行う場合には他の理屈が必要になります。例えば定年前の業務内容と賃金を基準として、「労働時間、労働日数の短縮」「業務内容の緩和」「責任の軽減」等をセットで行わなければいけません。今後の判決の動向次第では多くの中小企業で行われている再雇用の仕組みは成り立たなくなることが予想されます。あるいは今回の判決を契機として、65歳定年制法制化の動きにも影響するかもしれません。今後の動向に注視していきたいと思います。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。