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「企画業務型裁量労働制」の改正について

2015年06月10日 カテゴリ:労務関連

執筆者:森中 謙介

人事戦略研究所 コンサルタント

大学院では会社法務・労働法務を中心とした法律学の研究に従事。新経営サービス入社後は、主に中堅・中小企業を対象とした人事評価・賃金制度構築のコンサルティングを行なう。労務管理の分野にも精通し、最近では「残業削減」をテーマにしたセミナーや雑誌記事の執筆「改正労基法への実務対応①~④(人事マネジメント誌)」など、精力的に活動している。

現在国会で審議中の「労働基準法等の一部を改正する法律案」に関しては、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」(職務の範囲が明確で一定の年収:少なくとも1,000万円以上、を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする)が最も注目されており、ニュース等でも「残業代ゼロ法案」として度々取り上げられているが、これ以外にも幾つか重要な法律改正が含まれていることはあまり知られていない。具体的には「フレックスタイム制」の見直し(清算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長)、「企画業務型裁量労働制の見直し」(対象業務を追加)など、実務担当者にとってはメジャーな仕組みの法律改正が予定されている。むしろ、高度プロフェッショナル制度よりも残りの2つの方が、法律が改正された場合に適用される労働者が多いのではないかと思われる。そこで、今回は「企画業務型裁量労働制」の改正内容について、同制度のこれまでの運用経緯等を踏まえて少し詳しめに見ていきたい。

そもそも裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行手段や時間配分の決定を労働者の裁量にゆだねる必要のある業務についてみなし労働時間を採用するものであり、一定の専門性を要する業務を対象とした専門業務型と企画立案調査分析業務を対象とした企画業務型の2つの類型が規定されている。IT企業のSEやメーカーの研究開発職などに適用されるのは、通常「専門業務型」である。よく使われるようになってきているイメージがあるが、それでも適用割合はまだまだ低い。平成26年就労条件総合調査によれば、専門業務型裁量労働制の適用労働者の割合は1.0%、企画業務型に至っては0.2%程度しかない。この程度の採用割合に止まっている理由としては、制度が悪利用されることで「残業代が支払われない」残業が増えるのではないかとの懸念から、制度が適用できる労働者の対象業務を相当に限定していることと、労使協定が必要など厳格な手続きを求めていることによる。

企画業務型裁量労働制に関しては、特に現行制度が対象とする「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」に該当する労働者が非常に限定されており、企業の実態と乖離して円滑な制度の導入や運用が難しいとの指摘もある。こうした声を受け、「労働者が主体性をもって働けるようにする」という制度本来の趣旨に即した活用が進むよう、以下の類型を新たに追加することが改正法案に盛り込まれることとなった。もちろん、労働政策審議会における改正案の審議過程においては、制度が適用できる類型を増やすことで「裁量労働制のもとに長時間労働に対する抑止力が作用せず、結果的に過剰な長時間労働になる労働者が増えることとなるため認められない」旨の反対意見も出されていたところである。今回の改正で追加が予定されている具体的な新類型は、「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」(以下、「報告」)によれば、以下の通り。

 

① 法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画立案調査分析と一体的に行う商品やサービス内容に係る課題解決型提案営業の業務(具体的には、例えば「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた課題解決型商品を開発の上、販売する業務」等を想定)

②事業の運営に関する事項の実施の管理と、その実施状況の検証結果に基づく事業の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行う業務(具体的には、例えば「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等を想定)


上記「報告」に関して、報道等では「①が"課題解決型提案営業"」「②が"裁量的にPDCAを回す業務"」などと簡易的に表現されることがある。簡易的な表現を見れば、適用対象となる労働者がかなり増えそうな印象を持つが、実際には「報告」にあるように、一定の縛りはされていると見てよい。

例えば、①に関しては「法人顧客」とあるので、個人客への営業は含まれないと読めるし、企画立案調査分析(具体例で新商品開発の案件が書かれているが、「新商品開発」でなければいけないということではない)に関しては「一体的に行う」とあるので、こうした要素を含まない営業は除外される。「報告」では、否定的要素として「店頭販売やルートセールス等、単純な営業の業務である場合や、そうした業務と"組み合わせる"場合は対象業務とはなり得ない」とされている。「組み合わせ」も不可ということなので、このあたりは企業の実態と乖離しないかという懸念はある。提案営業を行う社員でも、ルートセールスも担当する場合はあると考えられるからである。このあたりは、実際に制度を運用するのであれば注意が必要なところであろう。

②に関しては、具体例をみるとメーカーの中でも相当に限定された業務のように見えるが、原則に関しては①よりも少し解釈の幅が広い。「報告」では否定的要素として「企画立案調査分析業務と組み合わせる業務が、個別の製造業務や備品等の物品購入業務、庶務経理業務等である場合は、対象業務とはなり得ない」といったものが考えられる、としている。

対象が広くなり過ぎれば、制度の悪利用により過剰な長時間労働を余儀なくされるおそれのある労働者が増える懸念があるし、逆に対象が狭すぎれば、適用できる労働者の割合が増えず、制度運用が促進していかないというジレンマがある。この点、「報告」では、新たに追加する類型の対象業務範囲の詳細(肯定的要素及び否定的要素)に関しては、法定指針で具体的に示すことが適当である、としている。 改正法が成立すれば、現行制度より制度を適用できる労働者が増えることは間違いない。ただ、だからといって十分な情報の裏付け無しに運用してしまうと、「実態として認められない」として、後々裁量労働制の適用が無効と判断されることもありうる(現状でも、専門業務型裁量労働制が「実態として裁量無し」として裁判で無効とされるケースはゼロではない)。今後、法改正を機に企画業務型裁量労働制の運用を検討している企業の担当者の方は、今後政府から出る情報を注視し、適正な運用に努めていただきたい。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。