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マタハラ訴訟が企業人事に与える影響について

2015年01月04日 カテゴリ:労務関連

執筆者:森中 謙介

人事戦略研究所 コンサルタント

大学院では会社法務・労働法務を中心とした法律学の研究に従事。新経営サービス入社後は、主に中堅・中小企業を対象とした人事評価・賃金制度構築のコンサルティングを行なう。労務管理の分野にも精通し、最近では「残業削減」をテーマにしたセミナーや雑誌記事の執筆「改正労基法への実務対応①~④(人事マネジメント誌)」など、精力的に活動している。

今年も様々な労働判例が出されましたが、特に注目したいのが、妊娠や出産等を理由に職場で不利益を受ける「マタニティ・ハラスメント」、いわゆるマタハラに対する初の最高裁判断が出された事案です。
本件は、妊娠後に降格させられたのは、男女雇用機会均等法に違反するとして、広島市の病院に勤めていた理学療法士の女性が病院側に損害賠償を求めていた訴訟で、今年10月23日、最高裁は一審、二審の判決を破棄して広島高裁に差し戻す判断を下しました。マタハラに関する初の最高裁判断であり、ニュースにもなりました。
本件では、女性が妊娠をきっかけに現在より軽い業務への転換を希望し、異動後に役職を解かれましたが、このことが男女雇用均等法均等法9条3項が禁じる「妊娠や出産を理由に女性に不利益な扱いをすること」に抵触するかどうかが争点となりました。
簡単な経緯を記します。女性は当時副主任として働いていましたが、第二子出産をきっかけに、病院側へ軽い業務への転換を請求しましたが、異動後、副主任を解かれます。第二子を出産後、職場復帰した女性を病院側は元の部署へと異動させましたが、その時既に別のスタッフが副主任に命じられていたことを理由に、女性が副主任に命じられることはありませんでした。
病院側は、こうした人事を「裁量の範囲内で行ったこと」と主張し、一審、二審でも病院側の主張が支持されていたものの、最高裁では本件事案に深く入り込み、病院側の主張を覆すに至っています。最高裁判断のポイントは次のようなものです。


上告人(注:女性)は,妊娠中の軽易業務への転換としてのB(注:女性が働いていた施設)からリハビリ科への異動を契機として,本件措置により管理職である副主任から非管理職の職員に降格されたものであるところ,上記異動により患者の自宅への訪問を要しなくなったものの,上記異動の前後におけるリハビリ業務自体の負担の異同は明らかではない上,リハビリ科の主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質が判然としないこと等からすれば,副主任を免ぜられたこと自体によって上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではなく,上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。

他方で,本件措置により,上告人は,その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員に変更されるという処遇上の不利な影響を受けるとともに,管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利な影響も受けている。そして,(中略)育児休業を終えて職場復帰した後も,本件措置後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で,副主任に復帰することができずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けているのであって,このような一連の経緯に鑑みると,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間中の一時的な措置ではなく,上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置としてされたものとみるのが相当であるといわざるを得ない。


個人的な感覚としては、企業側が「役割と業務内容が変わるのだから役職を外れることはありうるし、その間に別の役職者を立てる必要も当然あるよね?」と考えるのは別段無理な話ではありません。妊娠前は役職者をやっていたといっても、仕事量がこなせるようになったからといって、既に別の役職者がいる状態で元の役職に戻せるかというと・・・簡単ではないと感じます。多くの企業でも、同じ対応が行われていると推察します。

この点、最高裁判断も企業側の事情を全く考慮していないわけでは無いと考えますが、個別具体的な事情を勘案したとき、「本件降格は一時的な措置ではなく」「役職者への復帰を予定しない措置」であり、そうする「特段の事情も認められない」と判断されることとなりました。

本件が企業人事に与える影響は少なくないと考えます。少なくとも、通常の人事を行うような感覚で対応していては、男女雇用機会均等法上のリスクが増加することになります。

企業としては今後、マタハラに関連して、人事上の処遇を厳格に判断する必要があることは間違いありません。まずは、社内のガイドラインを策定することからスタートしましょう。個別には、妊娠前後で役職を外れるなど降格人事を行う必要性がある場合には、本人への十分な説明と合意を得ておくことが重要です。妊娠、育児休業等が終わって通常の勤務に戻れるようになった場合に、すぐに役職に戻すことが出来ないまでも、他部署で役職者の空きが出るなど、充てられるポジションがあれば優先的に人事を行うよう話をしておくことなども検討すべきでしょう。また、給与が下がったにも係らず実質的な業務負担は変わっていないなど、形式と実態との乖離が起きないようにすることなども求められます。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。