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賃金設計講座(2) 諸手当の設計について⑥

2013年05月08日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

前回のブログでは、諸手当の一つである「家族手当」について、設計に際しての具体的なポイント等について述べた。今回のブログでは、3つ目の諸手当として「住宅手当」を取り上げることとする。

1.「住宅手当」の定義とトレンド
住宅手当は、社員の住宅形態や世帯状況などに応じて支給される手当である。前回のブログで解説した家族手当と同様に、いわゆる「属人的手当」の代表格である。
住宅手当についても、90年代後半からの成果主義ブームにおいて、廃止に踏み切る企業が数多く見られた。しかしながら、家族手当と同じく、現在でも日本企業の多くが依然としてこの住宅手当を採用しているというのが実情である。調査機関によって具体的なデータは異なるものの、およそ半数程度の企業が未だに導入しているようである。
但し、近年のトレンドという観点で両者を比較すると、住宅手当と家族手当とではその様相が異なっている。先述の通り、家族手当については、ここ数年において金額増加や支給対象範囲の拡大といった傾向が見受けられる。これは、言うまでもなく、少子化を背景とした次世代育成支援への取り組みの表れである。一方の住宅手当はというと、支給額の増大や支給要件の緩和と言った世間動向が一定の潮流になっているか問われれば、特にそのような傾向は無いと思われる(※経年変化を調査した世間水準データに基づく客観的な意見ではなく、小生のコンサルティング経験に基づく私見であること、ご了承ください)。
日本企業の置かれている諸環境を鑑みれば、人事制度(賃金制度)に対する企業のポリシーが、成果主義や職務・役割主義といった「仕事主義」から大きく逆戻りするというのは、およそ考えにくい。そうだとすると、少子化施策と関連した家族手当は別として、その他の属人的給与は、中長期的に見れば廃止・減額はあっても新設・増額はほとんど無いであろう。本稿のテーマである住宅手当も同様である。

(今後のトレンドはともかくとして、)以下では、住宅手当の設計にあたり特に留意すべきポイントについて解説する。

2.割増賃金の算定基礎から除外したい場合は、支給要件や算定方法の設定に注意する
実務上、しばしば問題になる部分である。ご承知の通り、住宅手当は割増賃金の算定基礎から除外することが法的に認められている賃金である。しかしながら、「住宅手当」と称するものすべてが対象外になるかというと、そうではない。割増賃金の算定基礎の除外対象として法的に認められる住宅手当であるかどうかは、支給要件や算定方法について、以下の行政通達に基づいて判断されることになる。

①割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱うこと。
②住宅に要する費用とは、賃貸住宅については、居住に必要な住宅(これに付随する設備等を含む。以下同じ。)の賃借のために必要な費用、持家については、居住に必要な住宅の購入、管理等のために必要な費用をいうものであること。
③費用に応じた算定とは、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるにしたがって額を多くすることをいうものであること。
④住宅に要する費用以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に要する費用にかかわらず一律に定額で支給される手当は、本条の住宅手当に当たらないものであること。

【イ 本条の住宅手当に当たる例】
イ)住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給することとされているもの。
ロ)住宅に要する費用を段階的に区分し、費用が増えるにしたがって額を多くして支給することとされているもの。例えば、家賃月額5~10万円の者には2万円、家賃月額10万円を超える者には3万円を支給することとされているようなもの。

【ロ 本条の住宅手当に当らない例】
ハ)住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給することとされているようなもの。
ニ)住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの。例えば、扶養家族がある者には2万円、扶養家族がない者には1万円を支給することとされているようなもの。
ホ)全員に一律に定額で支給することとされているもの。

(※上掲の行政通達は、【平成11.3.31 基発第170号】から引用したものである。なお、文中にある「本条の住宅手当」とは、「割増賃金の基礎から除外される住宅手当」のことを意味していると解される。)

上記をご覧いただければ分かるように、法的な除外対象要件を確実に満たすような住宅手当というのは、運用が非常に煩雑な手当ということになる。従って、住宅手当を導入している企業であっても、当該要件を満たしていないケースはかなりあると推察される。しかしながら、当然、除外対象要件を満たしていなければ「割増賃金の基礎から除外される賃金には該当しない」ことになるので注意されたい。
要は、「運用面を重視した住宅手当」とするのか、「割増賃金の算定基礎からの除外を重視した住宅手当」とするのかによって、制度設計の方向性が大きく異なってくるので、事前に十分な検討が必要である。

次回(以降)のブログでは、「地域手当」について設計のポイントや留意点などについて解説をしていきたいと思う。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。