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「管理者」の残業代問題に対する実務的対策アプローチ(2)

2008年09月08日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

3.「管理職」の残業代問題解決に対する実務的アプローチの具体的方法

前回の章では、某大手外食チェーンの管理職残業代問題の判決を契機とした当該問題の直近動向、及び、当該問題に関する法律的要件の整理を行なった。

今回の章では、今後、「管理職」の残業代問題に対する法律的アプローチがより一層強く求められることになるであろうとの前提の下、当該問題に対する実務的対策方法について解説していきたい。

なお、具体的な方法論の解説に移る前に、以降で使用する「管理職」及び「管理監督者」の言葉の定義について整理しておくこととする。

  • 「(広義)管理職」・・・・(法的)管理監督者と(狭義)管理職の総称
  • 「(法的)管理監督者」・・法律上の要件に基づく管理監督者
  • 「(狭義)管理職」・・・・(広義)管理職のうち、(法的)管理監督者に該当しない管理職

さて、実務的な対策アプローチについてであるが、以下のステップに基づいて進めていくことになる。

<実務的対策のステップ>

  1. 自社の「(広義)管理職」を「(法的)管理監督者」と「(狭義)管理職」に区分
  2. 「(狭義)管理職」の「(法的)管理監督者」化の可否検討
  3. 「(狭義)管理職」の賃金制度の見直し
  4. 「(狭義)管理職」に対する時間管理方式の見直し

以降では、それぞれのステップ毎に、具体的な対策方法を示していく。

(1)自社の「(広義)管理職」を「(法的)管理監督者」と「(狭義)管理職」に区分

はじめに、自社の現在の「(広義)管理職」が、「(法的)管理監督者」に該当するか否かについての判断を行なうことが必要となる。仮に、すべての現行「(広義)管理職」が「(法的)管理監督者」に該当するのであれば、特段の対策は不要となるからである。しかしながら、多くの企業において、現行の「(広義)管理職」の全てが「(法的)管理監督者」に該当するケースは稀有であると推測されるし、だからこそ、当該問題が社会的関心事になっているのである。

当該判断を行なうにあたっての重要なポイントは、「適正な判断基準の使用」と「判断基準の適正な使用」である。2つとも同じような語句が並んでいるが、両者が意味する内容は大きく異なる。

まず、「適正な判断基準の使用」であるが、これについては前章で掲載した通達や過去の判例を判断基準として採用する必要がある。

次に、「判断基準の適正な使用」についてであるが、これについては通達や過去判例などの「適正な判断基準」を、その本質的意図も含めて正確・的確に理解・解釈した上で、判断根拠として使用することが必要となる。企業の管理職の実態如何によっては、通達や過去判例のみでは明確な判断をしづらいケースが多々あると思うが、そのような場合には、正確性を期すのであれば監督官庁に直接問い合わせることがベターである。明確な判断がつきづらいからという理由で、通達や判例が意図する基準内容を安易に都合よく解釈してしまわないよう注意することが必要である。

以上2つのポイントを踏まえた上で、自社の現行「(広義)管理職」を「(法的)管理監督者」と「(狭義)管理職」に区分していくことになる。その結果、「(法的)管理監督者」に該当しない「(狭義)管理職」の存在が明確になった場合には、次のステップとして当該「(狭義)管理職」の位置づけ/処遇/管理方法を見直していくことになる。具体的には、以下の(2)以降のアプローチである。

(2)「(狭義)管理職」の「(法的)管理監督者」化の可否検討

上記STEP(1)にて自社の現行「(広義)管理職」の全部もしくは一部が、労働法の要件を満たした「(法的)管理監督者」に該当しないことが明らかとなった場合、当該状況は正確には「違法状態」にあるということになる。今まででは、当該「違法状態」を有耶無耶のままに放置しておく企業が多く存在したが、今後は、先の通り当該「違法状態」に対する世間/労働者/行政の視線・対応が厳しくなることは不可避であると推測されるため、可能な限り早期に何らかの対応を実施する必要がある。

それでは、どのような対策を実施する必要があるのかということであるが、多くの人事担当者は「『(法的)管理監督者』に該当しない以上、残業代の支給対象としなければならない」と即断してしまうのではないだろうか?

もちろん、当該アプローチが間違っているわけではないが、その前段階のアプローチとして、まずは自社の現行「(狭義)管理職」を「(法的)管理監督者」に該当させる方法を検討すべきである。多くの日本企業における現在の「(狭義)管理職」の本質的な位置付けや役割を鑑みると、残念ながら当該アプローチの実施効果は望み薄であると言わざるをえないが、少なくとも検討のテーブルに載せる価値はあると思われる。

具体的な方法については、自社の現行「(狭義)管理職」の職務内容/責任と権限/勤務態様/待遇の各側面について、前掲の「適正な判断基準」たる通達や過去判例に従い、当該基準を満たすように見直しを行なうことになる。STEP①同様に、企業の管理職の実態如何によっては、通達や過去判例のみでは見直しの方向性を明確に見出しづらいケースも多々あると思うが、そのような場合には、正確性を期すのであれば監督官庁に直接問い合わせることがベターである。
なお参考までに、具体的方法の一例を以下に掲載させていただく。

<例:「勤務態様」について>

※上記は読者の方々に具体的方法のイメージを抱いていただくための一例にすぎないため、必ずしも上記対策によって法的要件が満たされるとは限らない。

※「(法的)管理監督者」に該当させるためには、上記「勤務態様」の側面だけでなく職務内容等の他の側面についても法的要件を満たす必要があると考えられる。

(3)「(狭義)管理職」の賃金制度の見直し

STEP(2)において、「(法的)管理監督職」への転換が困難な「(狭義)管理職」については、他の一般労働者と同様に残業代の支給対象に改めることが必要となる。

この際、多くの企業にとって重大な課題となるのが、「『(狭義)管理職』を割増賃金の対象とすることによって生じる人件費の増加幅を、如何にして抑制するか」という点である。当該課題の解決方法としては、STEP(4)の「時間管理方式の見直し」も一法であるが、やはり賃金制度そのものを見直すことがより優先的な取り組み事項となる。

賃金制度の具体的改定方法については、自社の現行賃金制度の内容や賃金制度改定に対する(法的要件以外の部分での)自社のポリシー等によって、様々なバリエーションが想定される。しかしながら、多くのケースでは、以下のような現状及び改定方向性になるのではないかと考えられる。

<「(狭義)管理職」の賃金制度の改定方向性(※一例)>

◆ 「(狭義)管理職」の賃金体系

上図における見直しのポイントは、以下の通りである。

◆ 見直しのポイント
  (1)職能給や役割給など、職位/等級ごとの要件レベルに応じた下方硬直的もしくは固定的な給与項目のウェイトを下げる
  (2)会社や所属組織、個人の業績に応じて変動する給与を導入する
  (3)役職手当のウェイトを下げる
※上記は読者の方々に具体的方法のイメージを抱いていただくための一例にすぎないため、必ずしも上記対策が最適解であるとは限らない。
※見直しに際しては、不利益変更等の労務問題を惹起しないよう注意するとともに、労使協議/労使合意等の必要な手続きを踏む必要がある。

上記では、月例給与の見直しの方向性についてのみ解説しているが、併せて賞与制度についても見直しを行なうべきである。賞与制度の改定方向性としては、月例給与同様に業績連動部分のウェイトを高めることが、人件費コントロール及びモチベーションの双方の観点から望ましいと考えられる。

(4)「(狭義)管理職」に対する時間管理方式の見直し

「(狭義)管理職」を残業代の支給対象へと改めるにあたっては、当該管理職に対するタイムマネジメントの方法についても見直すべきである。これによって、無秩序な残業代の発生を防止することが期待できる。

具体的には、「(狭義)管理職」に残業をさせる場合には、自己判断によるのではなく、原則として上司への申告制にすべきである。「(狭義)管理職」の上司は、部下である「(狭義)管理職」から残業申請が上がってきた場合には、必要な範囲で残業時間を認めるようにしなければならない。但し、コスト増を嫌って上司が必要以上に残業時間を認めないような動きをしてしまうと、結果として、部下である「(狭義)管理職」にサービス残業をさせてしまうことになりかねない。こうなってしまうと、別の意味での残業代問題につながってしまうため、残業時間の承認に際しては上司は細心の注意を払う必要がある。

4.終わりに

企業の人事担当者からすると、今までグレーな扱いだった部分が、今回の判決によって急に見直しの方向に進んでしまった感があるかもしれない。しかしながら、近年の動向を踏まえれば、今回の一連の動きは予測すべき状況であったと言えなくもない。いずれにしても、管理職の残業代問題は看過できない状況になってしまったことは否定できない事実である。繰り返しになるが、今までのように"見て見ぬ振り"はできなくなってしまったのである。

当該問題の解決が一筋縄ではいかないことは筆者も重々認識しているが、見直しをしない/遅らせることによるリスクを考えれば、問題解決に向けて迅速に取り組むべきであると考える。本稿がその一助になれば幸いである。

以上、2回にわたって、管理職の残業代問題に対する実務的対策アプローチについて述べてきた。当該問題においては、法的要件と実態とが大きく乖離しているという難しさを有しているため、踏み込んだ内容になっていない部分もあるかもしれないが、その点についてはご容赦いただきたい。また、本稿で記載している内容については、あくまでも筆者の一見解であるため、実際のアプローチに際しては各企業の状況を考慮しながら、最適な対応を実践していただきたい。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。